スプラウトデイズ




馴染みの店に美味しい料理。元雄英生が集まって、サプライズで相澤先生とプレマイ先生が来てくれて、あの時さぁ、なんて思い出話に花が咲く。そりゃあ、お酒も進むってもの。みんながみんな笑ってて、心がふわふわ浮き立った。うれしくって、たのしくて。こんな幸せのためだったなら、苦しかったあれやこれやも悪くない。ぜんぜん全く悪くない。救えなかった命を数えて泣き明かしたあの夜も、自分の無力さに立ち尽くすしかなかった現場も等しく相応に、プロだからこそ背負った全てが、あったかい色の波に溶けていく。

甘くてまろやかなリキュールが皮膚の下をゆったり漂い、体の内から熱が湧く。火照った頬が、なんにも起きてないっていうのに自然と緩んだ。

おかしいな。なんだかとっても気分がいい。


「おいなまえ、てめえそろそろ、」
「だーいじょーぶ! まだよゆ〜」
「なあ! そっちコークハイ頼んだ奴いるー!?」
「あ、はーい! わたしだよかみなり〜」
「おーおーもう出来上がってんじゃんみょうじー! さてはバクゴーの隣だからだなー?」
「へへっ、ないしょ〜」
「……」


新しいグラスを受け取ろうと手を伸ばす。けれど指が届く手前でやわく腰を捕らわれて、くんっと体が傾いた。

―――くらり、酩酊。

まさか踏ん張れるはずもない。呆気なく倒れた先は、幾度となく抱かれて眠った腕の中。レザー混じりの甘い香りが鼻腔を覆い、ふくれあがった安心感が意識すらをも包みこむ。おとなしく凭れながら見上げれば、赤い瞳と目が合った。いつの間にかコークハイを横流ししていた手のひらに、やんわり視界を塞がれる。真っ暗だけど、ひんやりしていて気持ちがいい。


「……ンだ。酒とられたわりに嬉しそうだな」
「んふっ」
「にやけんなコラ」


すぐそこで、勝己の吐息が微かに笑った。


title 約30の嘘




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