浮ついた恋の行方




入学してからいろんなことが立て続けに起こって、急速に仲良くなっていくA組の輪。そこにうまく溶け込めない私を「今度飯行かね?」と誘ってくれたのは、上鳴くんだった。ナンパだ抜け駆けだと皆に突っ込まれていたけれど、私にはそんな下心があるものではなく、単に気を遣ってくれているだけのように思えた。

約束までの一週間はあっという間。楽しみなことが待っていると、時間ってやつは凄く短く感じられる。

先に共有スペースで待っていた上鳴くんは、私に気付くなり「お、その服初めて見た!可愛いじゃん」と笑ってくれた。どう返せばいいのか。うまく笑えない私の手をごく自然に引く、一回り大きな手。


「ごめんね」
「何が?」
「あんまり慣れてなくて……こういうの」


バスに揺られながら、目を伏せる。

昔から笑うことが苦手だった。面白い話のひとつも出来なくて、何をどうしたらいいのか分からなくて、おまけに表情を作ることさえ下手なものだから、人付き合いはいつも最悪。思えば、誰かとこうして出掛けたことなど殆どない。

そんな私の不安を拭い去るように、上鳴くんは白い歯を覗かせて笑った。


「んなの全然。むしろ慣れてなくて良かったー」
「どうして?」
「どうしてって、みょうじ可愛いからさ。結構遊びに行ったりしてんのかなって思ってて、そんなら、二人っきりって結構ハードル上がるだろ?」
「……上鳴くんはお世辞が上手だね」
「マジで言ってんだって」


彼の指先が伸ばされる。私のこめかみをなぞって、すくいとった髪を耳にかけて「そっちのが可愛い」なんて。恥ずかしくって困るからやめて欲しい。得意気に細まった瞳から目が離せなくなりそう。

弾んだ声で紡がれる、朝から四回目の"可愛い"に、体の熱も心拍数も跳ね上がった。



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