ああきみがすきだ




冷たい春風が肌を撫でる。カーテンの隙間を通り抜けたそれが運んできたのは柔らかな睡魔。ベッドの上で寛いでいる勝己も、さっきから微動だにしない。試しに名前を呼んでみれば、その足先がほんの少し反応した。


「私もあがっていい?」
「ん……」


生返事と言うよりは唸り声と変わらない、なんとも適当なお許しにそっと笑って、ベッドにあがる。少し離れて横になれば、今にも閉じそうな赤い瞳とかち合った。彼の頭に敷かれていた片腕が、シーツの上を滑る。


「来い」
「え、結構重いよ?」
「重くねえわ……ナメんな」


いつにも増して低い声。怒っているわけじゃない。眠いだけ。

身体の内側へゆったり馴染むざらついた音が「なまえ」と催促する。


少しの恥ずかしさを振り切り「じゃあお邪魔します」と、差し出されたままの二の腕へ頭を預ける。重さが気になってなかなか力を抜けないでいれば、溜息を吐いた勝己に問答無用で抱き込まれた。

お日様の匂いだなあなんて、ぼんやり思う。上昇した体温が混ざり合って、抱き枕よろしく絡められた素足がなんともくすぐったい。こんな風に甘えてくるなんて珍しい。あったかいね、眠いね、と話しかけても「ん」しか返ってこないあたり、よっぽど眠いのだろう。もしかしたら、もう半分夢の中にいるのかもしれない。


「私のこと好き?」って聞いたら、気のない「ん」が返ってきた。



title by 華




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