平行線の赤い糸




その細く見える体のどこにあんな筋肉が眠っているんだろう。演習中のコスチューム姿をぼんやり浮かべながら、だらしなく気崩された制服姿を眺める。

ノーネクタイなワイシャツから覗く鎖骨は埋もれることなくしっかり浮いていて、ウエストは余り気味。あぐらをかいて猫背になっているからか、おまけと言わんばかりのより顕著な撫で肩が視認出来る。腰パンのせいでスラックスはぼそぼそ。


私が買ってきた激辛ソーセージパンをぺろりとたいらげた目前の爆豪は「食いづれえ」と、眉間に皺を寄せた。


「喧嘩売っとんのかコラ」
「滅相もございません」
「腹立つ言い方してんじゃねえ死ね」
「激辛ソーセージパン美味しかった?」
「……そこそこ」


ってことは美味しかったんだなあ。良かった。大抵の物に辛さが足りないと文句を垂れるので、パシリも楽じゃない。

次からはこの激辛シリーズを買ってこようと心に決めながら、ウェットティッシュを差し出す。無言で受け取った爆豪は、いい加減お礼の言葉というものをそろそろ脳みそに刻んだ方がいいと思う。ゴミ袋代わりのビニールを広げれば、役目を終えたそれが投げ入れられた。


「有難うは?」
「は? 燃やすぞ」


切ない。あれ、私一応彼女だよね。

念の為に確認すれば、何ふざけたこと抜かしとんだくらいの辛辣な眼差しと共に「たりめえだろ死ね」って言われた。死ねって。さっきも聞いたけど死ねって。どこからどうなってその暴言が出てくるのほんと。

実際死んだら悲しいくせに、なんてダル絡みは鬱陶しがられるのでやめておく。死ね死ね言ってても、まだその両手からは煙すらあがっていない。何だかんだご機嫌な証拠だ。火に油は注ぎたくない。そんなことより、人波に揉まれながら激辛ソーセージパンをゲットしてきた彼女に対して、何かご褒美があってもいいんじゃなかろうか。


「ねえ勝己さん?」
「きめえ」
「酷い。ちょっとくらい真面目に聞いてよ」
「先ずてめえが真面目に言えや。何が勝己さん?だ、ぶっ殺すぞ」
「じゃあ爆豪」
「勝己でいいわ」
「勝己」
「んだクソなまえ」
「ぐ……」


今まで名前で呼んでくれたことなんかなかったのに、何でこんな時だけサラッと呼ばせてサラッと呼び返してくれるのか。爆豪改め勝己のアメは使い所が絶妙だ。不覚にもときめいてしまった心臓が痛い。クソなんて大変宜しくない付属言語は脳内で消し、少しばかりの余韻を味わったところで一呼吸。


「これからも名前で呼んでね」
「うっせブス」


あれ、私本当に彼女だよね?



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