焼け付いた情景




やっぱり皆は凄いなあって痛感する度、息が詰まる。皆に比べて私はって、自分の無能さに落胆する。昔はこうじゃなかった。ヒーローになるんだって夢を見て、必死に勉強して個性を磨いていた一年前は、少なくともこんなに苦しくなかった。

何でだろう。どうしてだろう。何が足りないんだろう。一体どうすれば、もっと皆のように輝けるんだろう。自主練の仕方がダメなのか。もっと努力しなくちゃいけないのか。どんなに頑張っても前に進めないのは、私が悪いのか。

校舎裏の陰に隠れ、コンクリートの上でお弁当を広げる。出来るだけ一人になりたくて、ランチラッシュに無理を言って作ってもらった。自分で作るよりも格段に美味しいし、食欲が落ちていてもこれなら食べられるだろうって思った。けど、何でかなあ。お腹は減っているはずなのに、お箸を持った手が動かない。こんなに美味しそうなのに食べたいと思えない。


「いた!みょうじー!」


びくり。飛んできた声に肩が跳ねる。顔を上げれば、視界の真ん中に手を振りながら走ってくる切島くん。どうやら私を探していたらしい。すぐ隣までやって来た彼は肩で息をしながら「何もねえんだけど、最近飯ん時いねえから気になってよ」と、ちょっと恥ずかしそうに頬を掻いた。


「一人で食ってんのか?」
「うん」
「の割に進んでなさそうだけど……」
「あんまりお腹すいてなくて」
「あーそういう時あるよな。けど飯はしっかり食っといた方がいいぜ。演習もあるしさ」
「…うん。そうだね」


何でもない真っ直ぐな優しさが胸に染み入るよう。思わず瞼の奥に込み上げた熱を、吐息に乗せてそっと逃がす。こんなところで泣くわけにはいかない。きっと気を遣って来てくれたであろう切島くんに、これ以上心配をかけるわけにもいかない。だから「大丈夫。ちゃんと食べるよ」って笑ってみせた。これで安心して教室に戻ってくれるだろうと「わざわざありがとね」って。

でも、私の意思に反して彼は隣へ座った。


「一人より二人でいる方が、なんか食えそうな気しねえか?」


ニカッと鮫歯を覗かせたその笑顔があんまり眩しくて、一瞬眩暈がした。



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