安寧に添う




浮上していく薄い意識の中で鈍く響いた痛みに呻く。足が動かない。身体も動かない。暗い。ここはどこだろう。敵は。英雄は。今の状況は。フル回転する脳がぐらつく。足りないのは酸素か、はたまた血液か。


「なまえ!」


光と共に降ってきた声が眩しくて視界が眩む。逆光になっているシルエットは「生きてんな」と言った。


「今出してやっからじっとしてろ」


動いたら殺すと不穏な釘を刺され、大人しく脱力する。まあ元より力はあまり入らない。どうやら私の身体は、積み重なった瓦礫の間に挟まっているらしい。そりゃあ動かないわけだ。おまけにやっぱり血液が足りない。上手く頭が働かないし喉はカラカラ。

目を伏せ、言われた通りにじっと待つ。きっと瓦礫を退かしてくれているのだろう。徐々に明るさを取り戻していく視界がパッと真っ白になって眉根を寄せれば、すかさず伸ばされたかっちゃんの腕に抱え上げられた。走ったのは鈍痛。息が詰まって、肌が引き攣る。目敏く気付いた彼は顔を顰め「しっかりしろザコ。くたばんじゃねえぞ」なんて、珍しく励ましながら運んでくれた。


手当を受けたのは簡易ベッドの上。針を刺され繋がれたチューブの先には輸血パック。失血死四歩手前くらいか。痛みは殆どない。いつもながら治癒個性って凄いなあなんて、どこか他人事のようにぼんやり思う。

報告らしき電話をしながらもずっと傍にいてくれたかっちゃんは、私が起き上がると安堵の息を吐いた。


「良く私の場所が分かったね」
「ヨユーだわ。つかその前に言うことあんだろ」
「あー……無茶してすみませんでした?」
「チッ。次しゃしゃったら殺す」
「それプロヒーローが一番言っちゃいけない言葉だよ」
「うるせえクソが死ねカス」
「くたばんなって言ったり死ねって言ったり忙しいね」
「殺すぞてめえ」


額へピキピキと青筋が浮かんでいくいつもの様子に笑みが浮かぶ。「何笑っとんだ」なんて頬を抓られ、けれど、私が咳をこぼすなり慌てて背中を支えてくれたあたり、たっぷり愛されているらしいと知る。ずいぶん素直じゃない人を好きになってしまった。微笑ましくなるのは、もう何度目か。きっと両手の指じゃ足りない。良い相棒であり、良い旦那さんだった。

ちゃんと強くなるから、これからも見てて欲しい。

雄英高校の卒業式。そうお願いしたあの日からずっと、戦い方も個性の使い方も何もかも頭ではなく体で覚えていく危なっかしい私を、すぐ傍で支えてくれていた。



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