死にたがりと共に生きたい




「火葬も悪くないね」と、なまえは言った。あまり感情を宿さない瞳が、煌々と燃えゆく青を映す。まるで心を奪われたかのようにじっと見つめ続ける姿が危うく感じられるのは、きっと、ただの錯覚ではない。

炎へ吸い込まれてしまいそうな腕を掴む。振り向いたなまえは小さく笑って、それから「大丈夫だよ」と俺の腕の中へ身を寄せた。


「ずいぶん心配性になったね」
「誰かさんがすぐ死にたがるせいでな」
「だって、生きていても仕方ないもの」


吐き捨てるように紡がれた言葉が、翳りを帯びる。

誰も愛してくれない。誰も必要としてくれない。そもそも生まれた意味なんてなかった。生まれてくるべきじゃなかった。私にも世界にも、生きるに値する価値なんてない。

いつだったかの夜に聞いた、そんな台詞と重なる。


首を吊ったり、手首を切ったり、飛び降りたり、わざと負傷しては手当もせずに放っておいたり。死柄木に言われたとはいえ、いい加減お守りにも疲れ始めた頃。何故そうまでして死のうとするのか詰め寄ったあの日、特別だからね、と苦笑混じりに教えてくれた"死にたい理由"を思い出す。劣悪な家庭環境で育ち、ようやく個性が発現した十二歳の誕生日に世間から与えられたプレゼントは、親殺しの呼称。そこからはまあ、散々な悲劇のオンパレードだった。死にたくなるのも無理はないし気持ちは分かる。が、俺にだって、死なれちゃ困る理由があった。


「まあそう言うなよ。今は連合が必要としてる」
「使い捨ての駒として、でしょ? 私じゃなくても良いじゃない」
「それが良くねえんだよ」
「?」


ろくに食事も摂らないせいか、骨と皮だけの細い体躯を抱き締める。もう少し肉をつければ、さぞ良い女になるだろうのに勿体ない。月光を弾く雪のような肌も、長い睫毛も、淡い色をした唇も、一つ一つきれいに配置されているそれら全て、決して悪くなかった。


「俺が良くねえんだよ、なまえ」


少しの沈黙を経て「愛着でも湧いちゃったの?」とくすくす笑うなまえの声は、心なしか嬉しそうに聞こえた。気のせいかもしれない。そうあって欲しいと祈るあまりの、ただの幻聴かもしれない。分からない。ただ肌で感じる体温は、ちゃんと人肌の温度を保っていた。




※夢BOXより【死にたがり夢主と共に生きたい荼毘】




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