きみを淘汰したい




世の中には、二種類の人間がいる。吐き出せずに溜め込む人と、溜め込む前に発散出来る人。私の周りには圧倒的に前者が多い。彼もその内のひとり。飄々と誤魔化しては平気なフリをする。痛みを訴えることも、涙を見せることもない。

でも、ずっと見ていれば分かる。皮膚の繋ぎ目が時折痛むこと。綺麗なエメラルドグリーンが翳りを帯びる瞬間があること。重量オーバーな何かが、その背中へ乗っていること。そして、眠れない夜があること。

今日が、その日であること。



「ああ、なまえか。どうした? 夜這いなら間に合ってるぜ」


ノックした扉から顔を出した荼毘は、軽口を叩きながら口端をあげてみせた。普段より舌が回るのは調子が良くない証拠。私を見下ろす瞳だって、ちっとも笑ってやしない。むしろ、やんわりとした拒絶すら孕んでいる。きっと、構ってやれるだけの余裕がないって感じだろう。


言ってくれればいいのに、と思う。たとえ良いアドバイスが浮かばなくても、私じゃ力不足だったとしても、虚しさや痛みを共有するくらいは出来る。受け止めることも、受け流すことも難しくない。黙って傍にいることも、肩や胸を貸すことだって容易い。

そんなにヤワじゃないから、もっと甘えて欲しい。いろんなものを持たせて欲しい。荷物は二人で持った方がきっと軽いし、分別もしやすい。別にかっこいい荼毘は要らない。笑って隠すくらいなら、みっともなく泣いてくれた方がいい。


ねえ。
見て見ぬフリは、もうしんどいよ。


「かっこ悪い荼毘を見に来たの」


だからちょっと、泣いてみせてよ。



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