朝チュン




小鳥の鳴き声が遠くに聞こえる。瞼の向こうはほんのり明るくて、いつも冷たいはずの布団は温かい。


身じろいで、気付く。
私を抱いている腕に、気付く。

ゆっくり開いた視界の中。学生の頃より傷の増えた肌が、微かな寝息と共に上下していた。一瞬フリーズした思考がじわじわ平静を取り戻す。ほんの少し力を借りたお酒は、まだテーブルの上か。


片づけなきゃなあってぼんやり思いながら、眠っている彼を起こさないように振り向く。案の定、薄暗い室内のテーブルにはお菓子の袋や缶がそのまま残っていて、床に散らばっている二人分の衣服がなんとも言いがたい羞恥を煽った。それでも、たくさん愛されたが故の気だるさは心地よくて。同窓会の後、送ってってやれば、と彼を捕まえてくれた泡瀬にこっそり感謝した。


「ん"……」


小さな唸り声に心臓が跳ねる。慌てて彼を見遣れば、眠そうな双眼とかち合った。相変わらずのひどい隈。


「おはよう」
「ん……体、大丈夫?」
「うん」
「ん……」


生返事とともにゆったり擦り寄せられた鼻先。肌に触れる吐息も甘えるような仕草も、なんだかくすぐったくて胸が熱い。高校三年間と社会人二年分の片想いが実ったのは、神様の気まぐれか。

すみれ色の髪を撫で「ちょっと痛いけど」って悪戯に付け足す。少しだけ黙った人使は「ごめん」と、バツが悪そうに、幸せそうに苦笑した。



仲良し組のグループトークで付き合えました報告をしたその日。『やっとかー!』『やきもきしてたのよねー』なんて、二人そろって皆にお祝いされたのは、また別の話。




※夢BOXより【心操くんと朝チュン】




back