安息区画




「手、繋いでも良いですか?」


振り向いた視界の中、やんわり微笑んでみせる。まるで黄水晶のような色の瞳がゆったり細まり、返されたのは最上級の許し。


「好きにしろ」


形のいい爪へ触れ、筋張った長い指を撫で、なめらかな肌をなぞる。ぴくりと震えたその手を優しく握る。


「お前は怖くないのか」
「この手が、ですか?」
「ああ」
「どうして?」
「……」
「また誰かに、何か言われましたか」
「……」


治崎さんは一瞬眉を顰め、けれど何も言わなかった。おおかた図星だったのだろう。いつものような相槌もなく手を振り払うこともなく。ただ力を抜いて、私の温度を許容する。言葉通り、好きに遊ばせてくれる。

人に触れると蕁麻疹が出てしまう彼の皮膚が、私に対して反応を示すことはもうない。たぶんきっと、それくらい長く傍にいるから。互いに拒むことを忘れてしまったから。彼を人殺しだと畏怖する臆病な連中と違って、この手が秘めている優しさを知っているから。


「怖くないですよ。ちっとも」


指を絡ませたまま、甘え方を知らない腕へ身を寄せる。


「ちゃんと好きですよ、治崎さん」


彼の安寧を保つのは、いつだって私の役目だった。



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