主よ




身体が重い。腰が痛い。久々のオフだからって歯止めが効かなかったのはまあ分かるし、なんだかんだ愛されている嬉しさもないわけではないけれど、それにしたってもうちょっと労わってくれやしないもんか。痛くねえかって壊れものを扱うようだったあの頃が、最早懐かしい。

溜息をこぼしつつ乗っかっている腕を退け、頭上のスマホを手繰り寄せる。髪を掻きあげながらタップした画面に通知は無い。見ることがナチュラルに許されている彼のスマホも同様、ロック画面が示すのは午前十一時二十七分。昨夜も今朝も、街は平和だったらしい。良かった。プロヒーローがイチャついてて要請に気付きませんでした、なんてシャレにならないもの。


あー洗濯回さなきゃなあ。めんどくさいなあ。勝己やってくんないかなあ。


尾を引く眠気に瞼を擦り、はあって息を吐きながら起きる様子のない背中へのしかかる。がっしりした僧帽筋、大円筋、広背筋。いくつか走る赤い線は、たぶん私が引っ掻いた痕だろう。じわじわ広がる体温と優越感に、心が弛む。無防備な項へ唇を寄せ、でもやっぱり腰が痛くて腹いせ混じりに甘噛みしてやれば、くぐもった声があがった。


「食べんじゃねえ……」


大きな手に頭を掴まれ、そのまま撫でられる。相変わらず雑だけれど、街中で子どもの頭を撫でるそれとはまた違った手付き。


「もう昼だよ」
「んー……」
「ねえ、起きないの?」
「……もう無理っつって泣いてよがっとったわりに元気だな」
「頭はね。体は死んでる」
「ハッ、雑魚」
「勝己がタフなだけでしょー」
「褒めんなよ」
「褒めてないし」
「あー?」


のっそり転がった勝己の背中から落ちる。ベッドに沈んだ途端、全てが億劫に思えてくるのだからいけない。起きて洗濯して、ご飯作んないと。お腹も空いたし、喉だって渇いている。なのに、振り向いた勝己は随分ご機嫌なようで、力が入らない私の体をいとも容易く抱き寄せた。寝起きの高い体温に包まれながら、全く仕方がない人だと苦笑する。昔は尖っていたくせに、最近はもっぱら甘えたさん。

「五分だけね」って大人しく擦り寄れば「みじけえ」なんて文句を垂れつつ、今度は優しく後頭部を撫でられた。



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