突き詰めればどれもこれも愛だった




腕の中。頭の丸みにそって、手を滑らせる。シャンプーの香り漂う髪が、指の隙間からさらさら流れていく。気恥ずかしそうにしていた焦凍は、どうやらようやく落ち着いたらしい。

仮にもヒーローを目指している身。腕枕くらいどうってことはないのに『重くねえか?』なんてずっと心配しているのだから笑ってしまう。皆ほど筋肉はないけれどそんなに弱くもないんだって、一体いつになったら認識してくれるのか。大事にされている自覚ばかりが育ってしまって、いつも私だけが得をしているような、そんな気がしていけない。私だって、大事にしたい。


「疲れたでしょ、今日」
「まあ。けど楽しかった」
「良かったね」
「ん」


ふんわり凪いだ空気。焦凍が笑ったことを知って、私の気分も浮遊する。


たぶんそろそろ、共用スペースの片付けが終わった頃だろう。焦凍の誕生日パーティーは、それはそれは盛大に行われた。相澤先生に頼み込んで、お姉さんとお兄さんにも来てもらった。

喜んで欲しかった。ワガママを言ってもいいんだよって伝えたかった。甘やかしてあげたかった。だって、せっかくの誕生日だ。一年に一度きりの素敵な日。昔みたいに、生まれてこなければなんて一ミリも思って欲しくなかった。豪奢なディナーも高価なプレゼントもまだ手が届かないから、せめていつもより贅沢な時間を過ごして欲しかった。結果的に楽しんでくれて、良かったと思う。


「俺のためにありがとな。大変だっただろ」
「そうでもなかったよ。皆手伝ってくれたし」
「そういや、全員に礼言えてねえな……」
「明日起きたら言いに行こ」
「そうだな」


おそるおそる背中へ回った手。首筋をくすぐる髪。肌を通して伝わる温度は、当たり前のようにあたたかい。まるで日々の狭間に転がっている小さな幸せを集約したような、穏やかなひと時。

胸元に埋まってゆっくり息を吐いた焦凍は「なんか寝るの勿体ねえ」と、もごもご呟いた。



*Happy Birthday 轟焦凍*
title 失青




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