逢瀬はリビングで




いつもそう。何も言わず悟らせず、寄越されるものといえば愛想のない暴言付きの返事か舌打ちくらい。そのくせ不意に優しく抱き締めたり甘えさせようとしたり、好きだと示してみせたり。よく分からない自由奔放さで、私の心臓をいじめてくる。

そんな勝己の傍に置かれて三年ちょっと。最近になってようやく、明確な言葉がなくても何を考えているのかくらいは掴めつつある。努力の賜物というより、たぶん慣れ。同棲を始めて、私と勝己のフィーリングが似てきたせいかもしれない。


「あ、お帰り」
「たでーま。てめえ玄関開けっぱにしてやがっただろ」
「ごめんごめん。そろそろ帰って来るかなーと思って」
「んな気遣い要らねえわアホ。俺も鍵持ってんだから、風呂行ってる間くれえ閉めろ」
「はーい。心配してくれてありがと」
「してねえ」


食い気味の返事に思わず笑えば、舌打ちが寄越された。きっと照れ隠しだろう。ちょっと嬉しい。交わっていた視線が、ふいっと逸らされる。

そんな仕草さえ可愛く思えて正面から抱き着けば、少々慌てた様子でまだお風呂に入っていないと窘められた。でも振り払われはしなかった。こうして私が甘えたくなった時、勝己もまた、甘やかしたいと思ってくれている証拠。座っている膝に乗り上げ「良いから充電させて」と首筋に鼻先を埋めれば「しゃーねえな」って抱き締め返してくれた。

土埃とほんのり甘い香り。互いの体温が滲んで、混ざって、溶けて。全身の力が抜けていく。仕事の疲れもどこへやら。まるで心臓が二つあるみたいに、右と左で鼓動が鳴る。


「なまえ」
「ん?」


顔を上げれば、思ったより近くでルビーが光っていた。穏やかな視線が言いたいことすら、やっぱりなんとなく分かるのだから不思議だ。勝己が求めているものを求めているその瞬間に与えることが出来るのは、優位に立てたようで嬉しい。

ほんの少し首を傾けて、触れるだけのキスをする。「今日もお疲れさまでした」と労えば、腰に回っていた手に後頭部を捕らわれた。ちょっと待って、これは誤算。酸素さえ奪うような荒々しいキスをお返しされ、腰が砕けていく。触れるだけじゃ足りなかったのか。


したり顔の勝己は「ヘタクソ」と満足気に笑った。



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