とっても繊細な生命線




こんなことを言ったら、きっと爆豪くんは『は?』って怒るだろうけど、彼の手に触れることが少しだけ怖い。

もちろん彼が優しいことは知っている。粗暴な言動が目立つけれど、私に対する声や眼差しなんかはあんまり尖っていない。だから、爆豪くん自体を怖いと思ったことは一度もない。ただ彼の主戦であるその大きな手だけは、なんだかとっても繊細な生命線のように感じられて、なんとなく安易に触れないのだ。


「視線がうるせえんだよカス」


買い物からの帰り道。相変わらずの仏頂面で差し出された手に、おそるおそる自分の手を重ねる。指を絡めるよりも早くぎゅっと握られ、じんわり広がった温もりが愛おしい。爆豪くんの体温は、いつも私を落ち着かせる。


「ごめんね」
「別に。手くれえ好きに繋げや」
「……うん」
「んだ今の間は」
「なんでもないよ」
「なんでもなくねえわ」


言えや、って凄まれる。でもやっぱり全然怖くない。一歩進む度に鳴るビニール袋が、和やかな空間を引き立てているからか。夕陽も、爆豪くんの髪も瞳も眩しい。

「ちょっとぼーっとしてただけ」と笑ってみせる。「今考えただろ」と図星を突かれ、いやいやそんなことないよ本当本当って誤魔化した。だって、傷をつけてしまいそうで怖いなんて、口が裂けても言えそうにない。ザコが余計な心配すんなって言われるに決まっていた。



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