二人分の寝息




眠ることは好き。朝も夜も昼も、出来ることなら日がな一日眠っていたい。あんまり動きたくないし、ベッドから出たくもない。怠惰な奴って思われるだろうけど、そもそも人間は眠っている間に諸々修復される生き物だ。生きていく上で必要不可欠。少なくとも私はそう。

眠っている間に傷を治す個性をもって生まれた私は、やっぱり眠ることが好きで、ベッドが好きで、薄暗くて快適な温度を保っているかっちゃんの部屋が好きだった。


「てめえの部屋で寝ろやカス」
「ここがいい。寝やすい」
「んなこた聞いてねえわ。オラ退け」
「えー」
「えーじゃねえ」
「一緒に寝よ」
「せめえ」
「かっちゃんのベッドがちっちゃいんだよ」
「んで俺が悪いみてえに言っとんだ殺すぞ」
「えー」
「えーじゃねえ!」


瞬時に浮かんだ青筋を微笑ましく思いながら、もそもそ端へ寄る。目いっぱい眉間にシワを寄せたかっちゃんは、それでも舌打ち一つで許してくれるらしい。

まるでいつも通り。空けた隣へ潜り込んできて、私に背中を向ける。


でもね、知ってるんだよ。この間、演習で怪我したこと。軽いけど、まだ治っていないこと。たぶん誰にも言ってなくて、たぶん少しだけ痛む時があって、たぶん私にバレたくないこと。だから一緒に寝たくないこと。

何で誰も頼らないのかなあ、この人は。 
私と眠れば、それこそ一晩で全部治っちゃうのに。


「かっちゃん」
「っせえな。まだ何かあんのか」
「ううん。おやすみって言いたかっただけ」
「チッ、はよ寝ろ」


うんって返事をして、広い背中に額を押し付ける。緩やかに息を吐いた彼から聞こえたのは、私が欲しかった「おやすみ」だった。



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