ひびの隙間に花ひとつ




鼓膜を揺する微かな稼働音。時折響く水音と控えめなイルミネーションが心地いい。

乾燥が本格化するこの季節。荼毘がプレゼントしてくれた加湿器は、なかなか良い仕事をする。途中で水をつぎ足す必要もなく、朝までしっかり潤してくれるのだから有難い。おかげで喉がガサガサになることはなく、肌状態も至って良好。

そう感謝の意を伝えると、目前の彼は満足そうに喉の奥で笑った。


「礼はキスでいいぜ」
「さっきしたのに?」
「俺からはな」
「ああ、私からのキスが欲しいってこと?」
「そーいうこと」


ん、と寄せられた鼻先。それ以上急かす素振りはなく、ただ視線を交わしたまま、じっと待っている姿がなんとも可愛い。いよいよお互いベタ惚れか。ちょっと遊ぶだけのつもりが、すっかり盲目になってしまった。私は荼毘がいないと落ち着かないし、荼毘は私がいないと深く眠れない。

継ぎ接ぎだらけの皮膚をひと撫でし、せっかくだからととびっきり甘いキスを贈る。「熱烈だな」と笑う声は、いつになく嬉しそうだった。



title 約30の嘘



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