柔愛




「寒くないか?」って声に頷いてみせる。

もこもこのカーディガンとコート。暖かいマフラーはぐるぐる巻き。手にはさっき買ったばかりのホットココア。いくら寒がりとはいえ、さすがにここまで護られていれば殆ど気温なんて感じない。


付き合い始めて、より鮮明になったのは、焦凍くんが心配性だってこと。きっと心が優しいからだろう。辛い思いをしてきた分、人の痛みが分かるからだろう。

思えば演習で足を捻った時も、熱を出して寝込んだ時も、ずっと傍にいてくれた。二人で行った水族館でもそう。足は痛くないか、疲れていないか、ちゃんと楽しいか。そんなことまで逐一気遣ってくれた。自分のことは置いてきぼりで、私のことばっかり。だから必ず、尋ねるようにしている。「焦凍くんは?」って。楽しいとか、面白いとか、嬉しいとか。あんまり口にしなくて顔にも出さない彼の、心の内が知りたかった。話して欲しかった。何もかも私だけじゃなくて、焦凍くんも一緒が良かった。


「焦凍くんは寒くない?」
「ああ。俺は調節出来るから大丈夫だ」
「そっか。じゃあ安心」


握った右手は、言葉通りちゃんと人肌の温度を保っていた。

冬に良く映える、きれいな色の双眼を見上げ「あったかいね」と笑いかける。つられて口元を緩めた焦凍くんは「なまえもあったけえな」と握り返してくれた。一身に注がれる眼差しは、ひどく愛しげで柔らかくて、なんだかちょっぴり恥ずかしかった。


title 失青



back