お昼寝




陽の光が弔くんの髪を透かす。色素の薄い、柔らかな猫っ毛。いくぶんか幼い寝顔が、なんとも可愛い。

小さく身じろいだ肩からずれた毛布をかけ直し、頭の形にそって手を動かす。さっきからずうっとこんな感じ。時折視線を上げて窓の外を眺めては、ただただ愛しい人の髪を梳く穏やかな時間。心地いい静けさの中、膝枕で眠る弔くんはまだ起きない。と思っていたけれど、視線を戻した時には目が開いていた。

特に何を言うでもなく、ぼうっと陽の光を眺める横顔はあまりに静かだった。


「……おはよう、弔くん」


一瞬。ほんの一瞬だけ震えることを忘れた喉から、言葉を吐き出す。いつもと違って静寂を纏う彼は、なんだかすうっと消えてしまいそうで怖かった。

そんな漠然とした不安が伝わってしまったのだろう。緩慢な動作でこちらを見上げた瞳。小さく開いた唇に「なまえ」と、名前を呼ばれる。


「らしくねえ顔だな」
「そう?」
「ん」


そんなことないよ、と笑って誤魔化せば、伸ばされた指先が控えめに頬を撫でていった。弔くんから触れてくれるなんて、珍しいこともあるもんだなあ。少しの驚きと嬉しさが、胸の底からふつふつ湧きあがる。たぶん、機嫌がいいのだろう。騒々しい世界を遮断して私が作り出したこの部屋は、彼にとって居心地がいいように出来ていた。


窓から、やわらかな陽が射し込む。きらきら光る色素の薄い猫っ毛を撫でながら、片方の手で弔くんの手をとる。


「黙っていなくならないでね」
「安心しろ。動く時はお前も一緒だ」


中指は浮かせたまま。たどたどしく握り返してくれた優しさが、陽だまりの中に溶けていった。



※夢BOXより【死柄木弔とお昼寝】




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