筋肉質な首筋に頬を擦り付けたい




「かっちゃん」
「あ?」
「ちょっと腕広げて」
「は? んで俺がてめえの、」
「いいから。一生のお願い」


落ち着いたルビーが、不満気に細められる。それでも私が何を求めているのか、自分が何を求められているのか、分かったのだろう。

口をへの字に曲げて少し黙ったかっちゃんは「たく、てめえの一生は何回あんだよ」と文句を垂れながら、両腕を広げてくれた。あぐらをかいて「来いや、なまえ」って顰めっ面で呼ばれる。なんだか泣きそうになって、無性に愛しくって。でも表には出さないまま、ただ「有難う」と身を寄せた。


「かっちゃん」
「んだよ」
「好き」
「知っとるわ」
「凄い好き」
「しつけえ」


広い背中に手を回し、筋肉質な首元に顔を埋める。素肌を堪能するようにうりうり擦り寄れば、ふんわり漂う同じシャンプーの香り。私たちを隔てるものは衣服くらいか。空気さえ入り込めないほどに引っ付くと、かっちゃんは溜息を吐いて、それから優しく抱き締めてくれた。


程よい圧迫感に、穏やかな心音。あったかい温度。自然と肩の力が抜けて、思考が凪ぐ。ゆったりとした心地よさに浸る。

こういう時、かっちゃんは何も言わない。何ひとつ詮索しないまま、私が求めた分だけ応えてくれる。自発的に甘やかしてはくれないけれど、甘えようとする私を咎めたりしない。不器用で荒っぽくて意地っ張り。でも、本当は優しい人。


私だけに許された距離感。私だけに与えられた自由。今この瞬間は、私だけの爆豪勝己。
そんな当たり前が当たり前であることの贅沢さを咀嚼する。幸福の味が、ちょっと疲れ気味な心をすくい上げていく。


「かっちゃん」
「うっせえな。んだコラ」
「好きです」
「さっき聞いたわ」
「かっちゃんは?」
「あ?」
「かっちゃんはどうなの」


聞きたいなあって、また鼻先をうりうり擦り付ける。耳を澄ませば、ヒーターの音と二人分の鼓動がこだました。


照れ隠しか、答えなのか、何なのか。数秒の間を置いて私の頭を鷲掴みにした彼は、粗雑に撫で回してくれた。なんだか犬みたいに扱われている気がしなくもない。おかげで髪はボサボサ。

抗議の唸り声をあげて、またうりうり。程よくおさまるベストポジションで落ち着いて少し。小さくこぼされた「嫌いじゃねえ」が、あまりに可愛くて嬉しくて、胸がざわめいた。



※夢BOXより【かっちゃんの筋肉質な太い首筋に頬を擦り付けたい】




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