A組生徒に見つかる




「だから心配し過ぎだって」
「そりゃするだろ……」


物を持つな、階段は使うな、背伸びをするな、そこ段差エトセトラ。さっきからうるさいったらない。心配してくれているのは分かる。妊娠してからというもの、残業も教員寮の使用も控えて毎日帰ってきてくれるようになったし、連絡不精なんて見る影もない。滅多となかったオフ日はほんの少しだけ増え、二十四時間傍にいてくれる過保護っぷり。いや、溺愛っぷりと言うべきか。

とにもかくにも良い旦那である。彼の仕事に支障を来たしてはいけないと、伝えることさえ散々迷って一人で病院に行っていた数ヶ月前がアホらしく思えるくらいには、身に染みて分かっている。でもちょっと心配し過ぎ。いくら私だけの身体じゃないとはいえ、自分のハンドバッグくらい自分で持てます。


「ねえ、本当に大丈夫だって。私仮にもヒーローなんだけど」
「今は俺の嫁だろ」
「またそうやって丸め込もうとする……」


悪戯に口角を吊り上げた消太に、溜息が漏れた瞬間。「相澤先生じゃん!」って声が、一直線に飛んできた。この呼び方は生徒さんかな。消太の嫌そうな顔が、なんとも可笑しい。

一緒に逃げるか、私を隠すか。わらわら寄ってきた学生達に「プライベートまで面倒を見る気はねえぞ」なんて言いながら、さり気なく私を背中へ回すあたり、きっと後者を選んだのだろう。それでもまあ、やっぱりバレてしまうもの。テレビの中で見た面々の視線へ軽く手を振れば、それらの瞳が大きく見開かれていった。


「もしかして奥さん!?」
「……ああ」
「えええ!?先生結婚しとったん!?てかお腹おっきいし……もしかしてお父ちゃんになるん!?」
「まあ!おめでとうございます!」
「ハッ、やる事やっとんだな」
「意外だ」
「なんか最近髭剃ってんなって思ってたんだよなー!」
「産まれたら抱っこしたいわ」
「予定日はいつですか?」
「待ちたまえ皆!奥様へのご挨拶が先だろう!」
「あ、そっか」
「いやーすみません、テンション上がっちゃって」
「待て上鳴。勝手に絡むな」
「ぷふ……っ」
「おい、笑うななまえ」


たった数分で心底疲れ切った様子の背中をぽふぽふ叩いて慰める。まあいいじゃない。ちょっと面白いから、挨拶くらいさせてあげようよ。




※夢BOXより【妊娠中でお腹が大きい奥さんを気遣う相澤さん】【相澤先生が彼女(もしくは奥さん)とデート中、A組生徒に見つかってしまう】




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