声帯は死なない




色付いていて、ワントーン高くて、心地好くて、綺麗でふわふわ。角の生えたあの子も、天然パーマのあの子も、メガネのあの子も、皆可愛い声を持っている。耳にするだけで癒されるような、守ってあげたくなるような、とっても女の子らしい声。

いいなあ。羨ましいなあ。私の声もそうであったなら、どんなに良かったか。たぶんもっと世界は明るくなっていたし、人と話すことがこんなに億劫に感じることも、きっとなかった。いや、もういいんだけどね。二十八年間この声と生きてきたわけだし、別にもう、いいんだけど。やっぱり、ふとした瞬間に思ってしまう。


「なまえ?」


会話(と言っても、ひざしの話に相槌を打っているだけ)の途中。顔を覗き込まれ、こぼれるのは苦笑い。ごめんね。急に黙った私のせいだね。そうは思っても、言葉は音にならなかった。たぶん私が、自分の声を否定しているせい。昔からそう。上手く話せない。そもそもこの声帯が震えることを思い出したのは、ひざしに出会ってからだった。あれからもう十年近くが経過しているけれど、時折こうして思い出せなくなる。心の病気だと、医者は言う。一緒に治していこうって、ひざしは言う。こんな私の声が好きだって、聞きたいって、俺の話ばっかじゃつまんねえからって、優しい彼は笑う。

そう、ひざしは優しい。


「ちょっと疲れたか」


伸ばされた無骨な指先が、耳の後ろを撫でていった。そのまま髪を梳き、私が吃驚しないよう、やんわり抱き寄せてくれる。そうして私の声は、ようやく言葉を取り戻す。


「ごめんね、ひざし」
「ノンノン!悪いことしてねえ時は謝らないって約束だろー?」
「うん。そうだったね」
「安心しな!俺は、お前の声もお前も、まとめて全部好きだからよ」


に、と上げられた口角につられ、頬がちょっぴり弛む。

自分の声を好きになれることなんて絶対に等しくないと思うけれど、それでも、大好きなひざしが好きだって言ってくれるなら、もうちょっと一緒に生きてみようかなって気になれた。




※夢BOXより【自分の声が嫌いな子とプレゼントマイク】




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