高純度の最愛を捧ぐ




小洒落たレストランで綺麗な夜景を見ながら食事をして、手を繋ぎながら街を歩いて、「俺ん家来る?」って控えめなお誘いに二つ返事で頷いた夜。お邪魔した人使くんの部屋は、相変わらず物が少なくて綺麗に片付けられていた。

ソファに腰を落ち着け、うーんと両腕を伸ばす。


「ありがとね。エスコートしてくれて」
「ああ、全然」
「あのレストラン、予約してくれてたの?」
「まあね。気に入った?」
「うん。美味しいし綺麗だし、なんかお姫様になった気分」
「そりゃ良かった」


瞳を細めて笑った人使くんは、ホットコーヒーを淹れてくれた。猫のしっぽが持ち手になった、お揃いのマグカップ。もうそんな季節なんだなあって、一緒に過ごしてきた日々がふんわり脳裏を漂う。

互いが互いを認識したのも、確かこんな時期だった。溶けるんじゃないかってくらい暑い夏が終わった初秋の頃。寒がりな私に、彼がカーディガンを貸してくれたことが、そもそもの始まりだった。今となっては懐かしい。あれから随分経つっていうのに、いつもいつも私ばかりが得をさせてもらっているような気がしてならない。『俺のしたいようにしてるだけだから』なんて優しさに、ずうっと甘えっぱなし。何でもいいから、そろそろお返しがしたいと思う。私が与えてもらった以上に、一緒にいて良かったって思ってもらいたい。



丁度いい甘さのコーヒーを飲みながら、そんなことを考えていた時、不意に聞こえた声に吃驚。


「もうすぐ六年だな」


ついに心の中まで分かるようになったのって一瞬心臓が跳ねたけれど、別にそういうわけではないらしい。マグカップを置いた指も、ゆったり寄越された視線も至って落ち着いている。ただ、皮膚を滑る空気は、なんとなくの違和感を孕んでいた。


「なまえ」と私を絆す低音。いつになく静かな瞳が寄せられ、反射的に目を瞑る。

重ねられた手。絡まった指。
小さなリップ音。

唇から離れていった熱に瞼を押し上げて、気付く。さっきまで触れていた手に、ちょこんと鎮座する上質な箱。四角いそれが何なのか、考えなくてもすぐに分かった。


「いつも有難う」
「……そんなの、こちらこそだよ」


全身に浸透する、愛しい温度。促されるままに開いた箱の中には、上品なウェーブデザインのシルバーリング。ああ、胸が熱い。耐え切れそうもない涙腺が、じわじわ緩んでいく。指輪も渡すタイミングも今日のデートも、きっとたくさん悩んでくれたんだろう。

優しい指先が目尻を撫でていく。温かい手のひらに頬を覆われ、降ってきたのは宥めるようなキス。擦り寄せられた鼻先。照れくさそうな、嬉しそうな表情。


「これからも傍にいて欲しい、から、結婚してください」


するりとなぞられた薬指で、ダイヤモンドが輝いた。



(thank you*にーさま)




back