夜明けは君とともに
鳥の鳴き声が遠くに聞こえる朝。薄いカーテン越しに届く柔らかな陽射しに、意識が浮上しかけた頃。枕元で、目覚まし音が鳴った。
――私のじゃない。
瞼を擦って、隣の背中をぺちぺち叩く。「ねえ、鳴ってる」って言いながら額をうりうり擦り付ければ、小さな唸り声があがった。布団から伸びた腕が枕元を探る。お目当てのスマートフォンはすぐに見つかったらしい。程なくして、音は止んだ。
「……わりぃ。消すん忘れとった」
少しガラついた、寝起き特有の声。まだ完全に頭が起きていないのか、珍しく素直に謝ったかっちゃんが寝返りを打つ。薄く、ゆっくり開かれたルビーに、鼓動が跳ねる。
「……大丈夫か」
「何が?」
「体に決まってんだろ」
口端を吊り上げて軽く笑ったかっちゃんに、見惚れたのも束の間。「その様子じゃ心配ねえな」と腰をなぞった指先に引き寄せられた。本当にかっちゃんなのかって疑ってしまうくらい優しい腕の中。昨晩同様、触れ合った素肌がちょっぴり恥ずかしくて、熱を帯びる。
「かっちゃん」
「あ?」
「ありがとね」
「……おう」
体温が上昇したような錯覚。ひたすらに緩む頬。じわじわ広がる互いの熱と、重なった心音。言葉にしない分、ぎゅっと抱き締めてくれたかっちゃんも、ちょっとは照れているのかな。
嬉しさに促されるまま、しっかり筋肉のついた首元へ鼻先を擦り寄せれば「くすぐってえ」と頭を押さえ込まれた。怒っている様子はない。どころか、彼の一挙一動全てが愛しさだけで形成されているように感じられて、私の方こそ、くすぐったかった。
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