帰宅したらご飯作ってくれてる




憂鬱を引き連れて、重い足を動かす。そろそろかっちゃんに会いたいなあ、なんて愛しのマイヒーローを思い浮かべながら鍵を開けると、リビングへ続く扉から、今朝消したはずの灯りが洩れていた。

不思議に思いながら、パンプスに指を引っかけて気付く。玄関の端には、きっちり揃えられたメンズスニーカー。

一瞬呼吸が止まって、ついでに思考も音も止まって、足だけが勝手に進む。カバンも上着も、何もかも放って扉を開けた先。


「かっちゃん!?」
「おうなまえ。お帰り」


悠々とソファで寛いでいるツンツン頭が振り向いた。ご飯を作ってくれたのか、室内に漂うのは、美味しそうな匂い。途端にお腹が空いて、疲れなんて一気に吹っ飛んで、頭が真っ白になる。動揺を隠せないまま歩み寄れば、不思議そうな吊り目がこちらを見上げた。


「ほんとにかっちゃんだ……」
「あ?なに訳分かんねえことぬかしとんだ。頭沸いたか」


大人になっても遠慮のない粗野な物言いに、ああかっちゃんだって泣きそうになる。最近は忙しくてテレビの中でしか会えなかったからか、いつも以上に嬉しくて心臓が痛い。合鍵を渡しておいて良かった。


「ねえ、いい?」


熱い目頭を指先で押さえながら、お伺いを立てる。何が、とは言わない。それでも理解してくれたかっちゃんはニヒルに笑って「来いよ」と、両手を広げてくれた。ソファに片膝を乗り上げて、腕の中へぽふり。まるで包むように抱き締めてくれた優しさに、ちょっとだけ泣いた。



title by るるる
※夢BOXより【家に帰ったらかっちゃんがごはん作ってくれてるお話】




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