その不器用さが何よりいとおしかったの




遠慮しているような、俯瞰しているような、敬遠しているような、躊躇しているような、とにかく、一線を画した位置に立っている男の子だった。体調は悪くない。気分だって悪くない。眠れないなんてこともない。いつ尋ねてもそう答えるその目元には、決まって気だるげな隈が張り付いている。

簡単に言ってしまえば、笑って欲しかった。真横へ無理やり引き上げた、口端だけの薄っぺらい笑みなんかじゃなくて、もっと純粋に、もっと素直に、心の底から幸せを噛んで欲しかった。だって、ねえ。私よりも二つ歳下の、ついこの間まで中学生だった彼が満足に笑えない世界なんて、そんなの、あんまりでしょう。


「ひとしくん」
「あ……お疲れさま、です」
「お疲れさま。今日もボロボロだね」
「ああ、まあ……まだまだ適わなくて」
「ふふ、将来が楽しみでいいじゃない」
「そう言ってくれると、救われるよ。ありがと」


眉を下げて目を細めて。そうして微笑みを象る口元は、相も変わらず私の胸をきゅうっと締め付ける。一身に注がれる眼差しは、ぎこちないながらひどくやわらかな愛しさを纏っているのに、こんなに憂いを帯びて感じるのは、どうしてか。


「て言うか、なまえさんインターン中じゃ……?」
「うん。でも、会いたいって言ってくれたから、早く終わらせて帰ってきちゃった」


伸ばした指の背で、彼の頬についている土埃を拭う。申し訳なさそうに薄く開かれた唇は、爪先立ちで塞いだ。驚いた顔で固まったひとしくんに、踵をおろして微笑んでみせる。すぐに謝ろうとするの、悪い癖だよね。


「もっと我儘言ってよ」
「……これでも結構、甘えてるつもりなんだけど」
「本当?」
「本当。会いたいとか、思っても普通言えないし……なまえさんだけだよ。いろいろと」
「そっか。嬉しい」


少しでも、きみの世界を鮮やかに色付けることが出来ているなら、嬉しい。

ゆるゆる髪を梳いていく指が心地よくて、つい視界が細まる。最初の頃は触れることさえ怖々としていたのに、そうだね。不慣れな感じはまだ否めないけれど、いつの間にか、上手になったね。




title by 花洩
※夢BOXより【年上彼女にだけは素直に甘えられる心操】




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