無防備




薄暗い室内で、クーラーだけが音を立てていた。濡れた髪を雑に拭いて、盛り上がっているベッドの中へ潜り込む。気付いた彼は私の髪をくしゃりと撫ぜて「まだ濡れてんじゃねえか」と、舌打ちをひとつ。


「うん、ごめん」
「乾かせや。布団濡れんだろ」
「うん」
「おい」


もう一度頷きながら、瞼をおろす。
眠い。どうしたって、今は眠い。

視覚が遮断され、色濃く感じられるのは、もうずいぶんと嗅ぎなれた柔軟剤の香り。それから、勝己のにおい。

厚い胸板に鼻先を埋め、背中に回した手で縋る。ごつごつした男らしい指がこめかみへ触れて、そのまま髪を流していったかと思うと、手近なタオルで水気をとってくれた。聞こえた吐息はたぶん、仕方ないなあって意味。面倒見がいいのは昔からだった。昔から、このちょっと荒い手付きが好きだった。


「おら、乾かしてやっから起きろ」
「勝己」
「あ?」


そんなことはいいから、なんて言ったら、怒るんだろうなあ。回らない頭でぼんやり考えながら「ねむいの」と口にする。

今日はたくさん頑張った。否、いつも頑張っているけれど、今日は特に頑張った。あの相澤先生に褒められたくらい、よく頑張った。だから、眠い。


「たく、風邪引くだろが」


体の下へ差し込まれた腕に引き寄せられる。勝己の上に半身が乗って、ゆったりとした浮遊感。背中に添えられた大きな手が温かい。

私ごと起き上がったその肩口へ頬を預ければ、微睡みの中で、控えめなドライヤーの音がした。



back