きっと恋に侵されてしまったの




「お茶子ちゃんみたいな女の子がいいの?」


唐突な質問に動きを止めたかっちゃんは、たっぷり間を置いてから顔を上げ「は?」と、眉間にシワを刻んだ。


「いいって何だクソなまえ」
「好きなのかなって」
「誰が」
「かっちゃんが」
「誰を」
「お茶子ちゃんみたいな女の子を」
「はあ?」
「ちょっと。理解してよ」
「うるせえ。アホ扱いすんなカス。理解した上でのリアクションだわ」


死ね、なんていつものおまけを吐き捨て、真っ当な答えを寄越すことなくスマートフォンへ戻った視線に、唇が尖る。

他の誰かじゃなくてお前がいい。そんな言葉が欲しかったのに、この男はつくづく恋愛に向いていない。きっと、私の胸に巣食うこの不安を察することも出来ない。


お茶子ちゃんは物怖じしなくて、ナチュラルな良い子で、頑張り屋さんだった。お上品とは言い難いけど、美味しそうによく食べる。たくさん笑う。女の子らしい柔らかさは癒し効果がとっても高くて、同性の私でさえ元気になれる。

かっちゃんが早い段階で彼女の名前を覚えたのは、もしかしたら、そういう女の子が好みだったからじゃないかって。普段の私なら鼻で笑ってしまうような、くだらない不安。ストレートに口にすれば、かっちゃんもきっと、くだらねえって鼻を鳴らすだろう。頭の隅ではわかっている。かっちゃんが私以外を選ぶなんて有り得ないってことも、生半可な気持ちで誰かを傍に置くような人じゃないってことも。それでも言葉が欲しいって思う私は、贅沢なんだろうか。これが情緒不安定ってやつか。そう考えると、ずいぶん情けない女に成り下がったものだ。


「ねえ、私の好きなとこ三つ言って」
「面」
「三つだってば」
「……目と鼻と口」
「適当過ぎて全然嬉しくないんだけど」
「ったく、さっきからンだコラめんどくせえ」
「んんん」


うにうに頬を揉まれ、遊ばれる。温かい指先から滲んだ体温は存外優しく、かっちゃん特有の雑な手つきも、私を落ち着けていくには十分だった。おそるおそる腕の中へ潜り込めば、めずらしく抱き締めてくれた広い胸に縋る。無意識にこぼれた「好きだよ」は、自信たっぷりな「知ってら」って声とカサついた唇に呑まれた。



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