追加でデザートのプリンまできっちり食べ終えたなまえは、言い出しっぺのくせして今日一日ノープランらしく、取り敢えず俺の部屋へ戻ることにした。買い物があるなら少しくらい付き合ってやっても良かったが、そもそも物欲が薄いのだろう。折角気を遣って聞いてやったってのに、欠伸混じりに返ってきた要望は「お昼寝したい」だった。苛立ちよりも呆れが勝るのはいつものこと。

腹いっぱいで眠いです、なんざてめえはガキか。産まれたてかコラ。


「つーか寝んなら帰れや」
「んー……」
「おい」
「…………」
「チッ」


限界が近いのか、覗きこんだなまえの瞼は殆ど開いていなかった。長い睫毛の奥。陰の中で眠気を訴える瞳に淡さはなく、普段の硝子玉をレッドダイヤと比喩するなら、今この瞬間深みを保ったまま虚空を映すそれは、まるで柘榴石。赤が重なる色彩の底に何か潜んでいるような気がして、つい見入ってしまった自分をくだらないと一蹴する。

こいつに隠れた本心などない。腹が減ったら食う。眠けりゃ寝る。会いたいから会う。余計な感情を介することなく、本能がそのまま行動へ直結する回路を搭載している部類の人間。考えが読めないのではなく、そもそも読むだけの思考が存在しない。


こくりこくりと船を漕ぎ始めた頭をはたき、腕を掴む。いつも低く感じられる体温は珍しく人肌そのもの。手を滑らせた先で待っていた枯れ枝のような指は、幼子が母親の手を握るように、極自然に絡まった。

ふらふら覚束ない体を引いてやり、A組寮の扉を開ける。


「お、バクゴーどこ行っ」
「うるせえ喋んな殺す」
「!?」


共用部で屯していた複数の間抜け面を睨み、エレベーターへ急ぐ。俺の否定ガン無視でさんざん彼女呼ばわりしてやがったくせに今更驚くんか。解せねえ。

勝手に寄る眉根をそのままに、床で寝ようとするアホをベッドへ追いやった。もそもそ布団へ潜る無防備さは、俺が傍にいるからこそか、そうでないのか。


「かつき……」


舌足らずな声に視線を上げる。薄ぼんやりと潤んだ、それでも淡白な瞳。僅かな幅をゆっくり瞬く重そうな瞼が海面のようにキラキラ光って、そういや化粧してたなって思い出す。タオルでも敷いておかねえと、この間干したばかりのシーツをまた洗う羽目になりかねない。

溜息を吐きながら片膝をついて腰を浮かせる。けれど立ち上がれはしなかった。「おいてくの」と大気を泳いだ声があまりに小さく弱く響いて、たった数歩、引き出しまでの距離を離れることさえ憚らせた。



片鱗の相貌




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