ネオンを抜けて



「お疲れさまー」
「お疲れ」
「今日は用事無し?」
「ああ」


ふうんって相槌を打ちながら、シートベルトを締める。運転席に座る廻さんを見るのは一週間ぶりくらいか。「何が食べたい」と聞かれ「廻さんが食べたい物」と返す。


「いつもそれだな」
「だって本当に何でもいいんだもん」


時間が空いている夜は、こうして学校まで迎えに来てくれて、彼の車で食事に行く。最早恒例となったこのディナーデートも慣れたもの。


最初は驚いた。そりゃ、告白された時が一番驚いたけれど、それでもなかなか驚いた。彼が何より嫌いなヒーローの育成機関最高峰である雄英高校。その門前まで、わざわざ迎えに来てくれるだなんて思いもしなかったのだ。正直、後で何を要求されるのか恐々していたけれど、蓋を開けてみれば何てことはない。会える時間が少ない分、埋め合わせをしようとしてくれているだけだった。

ちなみに、告白された時にテンパって素性を話すまで、私が雄英の生徒であることは知らなかったらしい。そんなに大人に見えていたのか、はたまたこの冷めた価値観がおよそヒーロー志望とは思えなかったのか。聞いてもはぐらかされるので、理由は未だに分からない。私の何がお気に召したのかも教えてくれない。でもまあ、好意は素直に嬉しいし、顔も声も個性も身長だって申し分ない人だ。捕まえておくにこしたことはなかった。


「好物もないと言ってたな」
「うん。別にどこでも良いよ?廻さんが連れてってくれるとこにハズレないし」
「まあ不味い店は知らないが……」


視界に入った赤信号。以前、私が好きだと言ったバンドの曲が流れる車内。ハンドルに手を置いたまま思案している横顔にせり上がるのは、ちょっとした優越感だった。

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