マイヒーロー



なんてホワイトで良い会社なんだろう。それに比べて、私のポンコツさったらない。さっきから涙が止まらなくて困る。

謝罪先のクライアントは「まあこんな事もあるよね。次から気を付けてくれたら、うちはそれでいいから」って許してくれたし、一緒に行ってくれた先輩だって「あんま気ぃ落とすなよ。俺に対してのごめんは要らないからな」と、笑ってコーヒーをくれた。特にお咎めもなく、叱られることもなく、もう罪悪感と情けなさでやっぱり涙が止まらない。休憩してきたらって外に出してくれた常務にさえ、申し訳なさしか浮かばない。涙って枯れるのかな。


非常口の外側。階段の踊り場で、ひとり蹲る。膝を抱えてしゃがんだまま、痺れを通り越した足の感覚は殆どない。それでも、そんなことどうでも良いくらいに全身が熱くて、ぐちゃぐちゃな思考回路がぼやけて霞んで。

聞こえるはずのない声が降ってくるまで、傍に立った気配に気付けなかった。


「泣き虫は変わんねえな、クソなまえ」


私の体をグッとすくい上げた逞しい腕に抱き込まれ、視界が閉ざされる。「泣かされたんか」って静かな声に首を振って、しゃくりあげながら私のミス諸々を伝えれば、優しく頭を撫でてくれた。こぼされた溜息には、どこか安堵が滲んでいたように思う。今はパトロール中だろうか。こんな分かりにくい所で小さくなっていたっていうのに、見付けてくれたんだね、勝己。


「ったく。ミスの一つや二つくれぇ、誰でもすんだろ。そんだけ慣れてんだよ。クライアントも会社の人間も」
「……っ」
「ましてや新人の、普段頑張ってる奴に怒るわけねえだろ。つーか気にもしねえわ」
「っ、そ、かな……」
「ごちゃごちゃ考えんな。謝って次から気を付けるで良いんだよ」
「……ん」
「おいブス。てめえがやんのはめそめそ泣くことじゃねえ。きっちり反省して前向いて、ミス分チャラにするくれぇの成果を出すことだ」


むぎゅ、と両頬を挟まれ、眼前には赤い瞳。雄英の頃から幾度となく私を支えてくれたそれに、自然と心が落ち着いていく。鼻の奥で充満していた熱が引いて、足の感覚が戻ってきて、大好きな体温が漸く感じられて。そうして勝己のド正論を脳内で反芻する内、涙は止まった。

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