木目調アイランド



――裏通りのパン屋さん、美味しいんだよ。二階がちょっとしたカフェになっててね。小さなカウンターと二人掛けのテーブルが二つあって、買ったパンをそのまま食べれるの。カウンターの向こうにはいつも愛想の良いお兄さんが立ってて、コーヒーとか紅茶とかスープとか、飲み物の注文をとってくれてね。あんまり居心地がいいものだから、つい長居しちゃったりして。でも、皆には秘密ね。ほら、席数が少ないから、すぐいっぱいになっちゃうの。そうしたら、私が入れないでしょう。


数日前、陽だまりの下で悪戯に笑っていたなまえは今、向かい側でクロワッサンを頬張っている。秘密と言っておきながら「鋭児郎くんとは来たかったの」なんて、一瞬で俺を舞い上がらせたその表情は、心底満足気だ。


「なまえ、ここついてるぜ」
「え、うそ。この辺?」
「違う違う。反対」


手を伸ばして口端についているチョコを拭いてやれば、お礼とともにふわふわ笑う。天気は良いしパンは美味いし、一週間ぶりに見る私服姿のなまえはご機嫌で可愛いし。まるで週一のご褒美みてえだなって、自然と浮かぶ笑みを返した。

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