わが家のトレーニング法
「はぁ……まじか……」
洗面所の鏡と睨めっこを始めて、かれこれ20分は経っただろうか。もう何度こぼれたかわからない溜息の原因は、お腹まわりについた脂肪。
自覚はしていた。
元から運動もしていないのに、ご飯はきっちり三食食べるし、くそほど使い所のない勝己を有効活用してあげようと無理やり作らせたケーキやクッキーは、私より上手で美味しくて食べる手が止まらなくなる。そんな感じだから、太ってきているだろうなってことくらい見当はついていた。
後ろを向いて、背中を鏡に映せば良く分かる。
相変わらず肩回りだけは痩せない身体だ。細く浮き出ている背骨と肩甲骨に少しはこのお肉が移ればいいのに。まったく、無駄な部位にばかり蓄積されていって、放置し過ぎた感が否めない。
「ダイエット……しようかなあ……」
そう、俯きながらぼやいた時だった。
「それ以上どこ痩せんだクソもやし」
「っ!?」
後ろから聞こえた声に、肩が跳ねる。慌てて服を手繰り寄せて振り向けば、呆れ顔の勝己がいた。腕組みをして扉に寄りかかっている姿は、また一段と逞しくなっているような気がしないでもない。というか。
「乙女の着替え覗くとかサイテー」
「ハッ、誰が乙女だ。ゴリラしかいねぇわ」
「ゴリラはアンタでしょーが。また筋トレしたの?ちょっとごつくなりすぎじゃない?」
「うるっせえクソもやし!普通だこれぐれえ!」
「いやいやいやいや、今のご時世細マッチョがモテるんだよ?もうそれゴリラじゃん」
「モテる為に鍛えてるわけじゃねぇ!」
まあ仮にモテたいと思っていても、すぐ火がつく短気をどうにかしなければ、この男は一生無理だと思う。せっかく顔だけは綺麗に生まれてきたのに、とても可哀想だ。
「てめぇ……今クソ失礼なこと考えとんだろ……」
「えっ、何でわかったの?」
「何となくわかんだよブス!」
「いや同じ顔じゃん?ほぼ一緒じゃん?なんならお目目は私のが可愛いじゃん?」
「自分で可愛いとか言ってんじゃねぇわ!殺す!!!」
「わあああ!おかーさーん!!勝己が襲ってくるー!!!」
「あ"ぁ"!?!?いい度胸だなてめぇ歯ぁ食いしばれや!!!」
「いーやーでーすー!」
服に袖を通しながら、一目散に逃げる。あいにく真正面からやりあって勝てるような個性は受け継いでいないが、逃げ足はピカイチなので、このままキッチンまで逃げれば私の勝ちである。いくら勝己と言えど、夕飯を作っているお母さんに勝てるわけなどなかった。
凄い足音を立てながら追ってくる目は、本当にどこまで凶暴なのってくらい吊り上がっていて、両手のひらがパチパチ音を立てて光っている。死んでも捕まりたくない。
フローリングで滑らないように気をつけながら、リビングの扉を開ける。「あんた達またやってんの?」と呆れ顔なお母さんの後ろに隠れると、勝己はふーふー言いながらも、キッチンの手前で止まった。
あ、ちょっとこれ痩せそう。