世界はこの掌の中



結婚の挨拶がてらお邪魔した馴染み深い爆豪家で、和やかなお喋りを楽しみながら新年を迎える。お風呂に入ってご飯を食べて、光己さんとダイニングテーブルで四度目の乾杯。勝己と勝さんはソファーでゆったり寛ぎ中。

テレビから響く「明けまして、おめでとうございまーす!」って声にハッとして「もう年明けたんだね。今年もよろしくね」なんて笑い合って。こんなにあったかくて素敵な人達が、もうすぐ私の家族になる胸いっぱいの幸福をそっと噛み締めた。


「はぁ〜それにしても、なまえちゃんが勝己とねぇ」
「すみません、頂いてしまって」
「何言ってんのー逆逆!バカ息子をもらってくれてありがとね」
「おい、聞こえてんぞクソババァ」
「事実でしょー」
「あ゙?ンだとコラもっぺん言ってみろや」
「まあまあ」


目を吊り上げた勝己がビール片手に舌を打つ。相変わらずお母さんになんて口の利き方……とは思うものの、すっかりほろ酔い状態の光己さんは気にしていないらしい。豪快に笑い飛ばし、次の酎ハイをあけた。


「でもほんと、嬉しいのよ。ちゃんと見てくれる子がお嫁さんになってくれて」
「そんな。見てもらってるのは私の方です。いつも先に気付いて、助けてくれて、支えてくれて」
「あら本当?」
「はい。素敵な息子さんです。だから今度は、私が幸せに出来るように頑張ります」
「んっふ。良かったわねー勝己ー」
「ハッ、言ってろ」


ぶっきらぼうな物言いは、ただの照れ隠し。長年傍にいる理解者が揃っているからこそ、室内を漂う穏やかな空気が揺らぐことはない。絶対的な安心感と温もりに、ゆっくり酔いが回っていく。空になったグラスへ梅酒を注げば、お祝いと日頃の慰労を兼ねて旅行に行こうって話が挙がった。

早速探し始めた光己さんのスマホ画面を覗き、プランを吟味する。嬉しいことに、食の好みも行きたい場所もイメージもだいたい同じ。勝さんは何でもいいよって言ってくれるらしいし、勝己もそう。基本的に『なまえが居りゃ何でもいい。好きに決めろ』って決定権を委ねてくれる。結構お母さん似な彼だけれど、そういうところはしっかり二人の子どもだ。

さあどこに行こう。何を食べよう。どんなことをしよう――。


わくわく高揚する心臓を抱え、お酒の入った頭で談笑している間。勝さんと勝己が優しい顔をしていたことを知るのは、また別の話。


「勝己くん」
「あ?」
「なまえちゃん、楽しそうだね」
「……ン」
「大事にしてあげなよ」
「たりめえだろ。その内孫の世話させてやっから覚悟しろや」
「それは楽しみだなぁ」

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