ただ抱き締めたくなる依存性



冬休みに突入した華の年末、帰省予定だったかっちゃんが私に合わせて寮に残ってくれたってだけで嬉しいのに、どういう風の吹き回しか惜しみなくスパダリっぷりを発揮してくれている。

文句ひとつ言わず腕枕で寝かしつけてくれて、朝が来れば「飯出来てんぞ」ってキスでおはよう。一緒にお菓子やジュースを買い込んだ大晦日は、小学生時代から恒例のガキ使で大笑いしながら年を越した。それから深夜三時くらいまでくっついていたものの睡魔に負けて意識が飛んで、目が覚めたらベッド内。つまり今、かっちゃんの腕の中。あったかいし物凄く幸せだけれど、ちょっと意味が分からない。人間、急に優しくされ過ぎるとキャパオーバーで冷静になるらしい。

とはいえ、かっちゃんに限って後ろめたいことは何もないだろうし(だって私以外に彼の面倒は見れないし何だかんだベタ惚れされている自覚がある)、考えられる可能性としてはからかって遊んでいるか気まぐれくらいのもの。うーん。


未だすよすよ眠っている端整な鼻先を摘む。ふご、と変な息をした眉間に皺が寄って、手を掴まれた。


「……にしやがんだクソなまえ……」
「おはよ」
「ん……」
「ちょ、……今日はかっちゃんが寝坊助さんなの?」
「……んー……」


両脚を挟まれ、背中に回った逞しい腕に抱き込まれる。必然、彼の厚い胸板に顔が埋まってちょっと苦しい。一先ず俯くことで酸素を確保すれば、大きな手のひらに後頭部を覆われた。

耳裏を緩やかに這った指先が、伸びたり曲がったり。どこで覚えてきたのか、一定の速度を保つこの撫で方は、近頃彼のお気に入りだった。


「かっちゃん、起きてる?」
「……寝てる」
「起きてんじゃん」
「せぇな……寝正月するっつったのてめえだろ」
「合わせてくれてるってこと?」
「ん」
「何で?」
「あ……?」
「何でそんな優しいの?いつももっとこう、渋々って感じじゃん。しゃーねえからやってやんぜ的なさ」
「……ハァ」
「やだ溜息が重い」


それなりに伸しかかっていた体重が軽くなる。離れていった手に肩を押され、耳元でスプリングが鳴いた。ぼんやり天井を捉えた視界に入り込む、眠そうな真赤の瞳。私が寝落ちしてしまった後、一体どれくらい起きていたのか。静かなその表情からは不満も怒りも窺えない。

こちらを見下ろしながら面倒くさそうに首裏を掻いたかっちゃんは「別に、たまにゃ甘やかしてやろうってだけだ。深い意味はねえ」と再度溜息をこぼした。「わぁったらまだ寝てろ」って、おざなりなキス。乾いた唇を追うように舌を差し出せばちゃんと優しく応じてくれたあたり、どうやらまだまだ甘やかしたい盛りらしい。

back - index