円かなる光と青き日々よ



ついソファでうたた寝して「体冷やすなっつってんだろ」とキレながら毛布を与えられるのは、そう少なくない。ごめんごめんって謝りながら、襲い来る眠気に瞼を擦る。

なんだか最近、どれだけ寝てもまだ眠い。これも妊娠特有の症状なんだろうか。幸い悪阻はそんなになく、たまに吐き気がするくらいで治まっている。柔軟剤だったりシャンプーだったり、香りがダメになってしまったものは即刻勝己が替えてくれて、最初の頃より気分も体もずいぶん楽。だからこそ日々皆のヒーローを務めあげている彼のために、平日だろうと休日だろうと家のことは全部私がやっておきたいのだけれど、いかんせん眠い。さっきいっぱい寝たのに。


「ごめん、ご飯まだ出来てなくて。洗濯は回したんだけど、」
「チッ」


言い終わらない内、空気を遮断した舌打ちに口を噤む。そうだよね。言い訳してないで動かなきゃね。反省に反省を重ねながら毛布を脇へ置く。ソファに手をついたところで、けれど、肩を押さえられた。

ゆるやかな力加減だった。上から押さえつけるわけじゃなく、浮きかけた体を止めただけ。たぶん彼にとっては添えているくらいの感覚だろう。ソファに戻った腰がやんわり沈む。未だ離れない大きな手から滲む温度は温かく「なまえ」と鼓膜を撫でる声がひどく優しい。

自然と持ち上がった視線の先。いつの間にかそこにいた勝己の眼は、全然怒っていやしなかった。


「全部一人でやろうとすんな」
「でも、」
「でもじゃねえ。てめえは家政婦か?ちげーだろ」


分厚い手のひらが、そうっと滑る。肩から首筋を伝い、お揃いのピアスを掠めて首裏へ。見上げた角度のまま固定され、迫る赤。


「もうじき母親で、俺の女だろ」
「……うん」
「わぁってんなら大事にされてろ。良いな?」


肯定代わりに瞼を閉じれば、待ってましたと言わんばかりのなめらかなキスが落ちてきた。カサついてなんかいない柔らかな感触。以前勝己が買ってきた加湿器が優秀である証拠。

軽く食まれた唇が再度交わった視線同様、ふんわり穏やかな熱を帯びた。

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