透明で優しい君の嘘



いくら苦手な料理といえど、絶賛恋愛中の彼氏に食べたいとお願いされれば頑張ろうと思えるのが乙女心。

スマホで検索したレシピを見ながら、以前電気くんが好きだと口にしていたハンバーグを焼く。少し焦げてしまったけれど見た目はそんなに悪くない。口コミを参考に作ったなんちゃってデミグラスソースをかけ、ポテトサラダを添えたら完成。

人を駄目にするソファに座り、テレビを見ながら待っている彼の元へ持っていく。キラキラ輝く瞳が、ちょっとした照れくささを掻き立てる。


「ごめん。若干焦げちゃったけど」
「んなの全然。俺のためになまえが作ってくれたってだけでちょー贅沢よ?ありがとな」


恥ずかしげもなく欲しい言葉をくれる笑顔に、じんわり火照る熱。

好きだなあ。

いつもそう。裏表なんてまるでなくて、ありのままで接してくれる。思いやりに溢れたその優しさが、私の不安を容易く拭ってはやんわりほぐす。いつもと同じ。心臓がとくとく高鳴って、勝手に頬が緩んでいって。そんなだから誤魔化しようもなく、素直に嬉しいって伝えながらお茶を注ぐ。


「不味かったら残して。遠慮しないでいいからね」
「いけるいける。何でも好きだし、そんな心配すんなって」


いただきます!

ぱちんと両手を合わせた電気くんはすぐにフォークを持って、心底嬉しそうにほかほかハンバーグを割った。大きなひと口。食堂やファミレスでも良く思うけれど、素敵な食べっぷりは見ていて気持ちがいい。

今日もそうだったらいい。あわよくば美味しいって笑ってほしい。なんて、まあ期待はしないまま整った横顔を見守る。というのも実は中学の時、家庭科の調理実習で一定数の被害者を出した経験があるのだ。

案の定、ウサギみたいにもぐもぐ動いていた口元は段々遅くなり、やがてハムスターみたいにぷくっと頬が膨らんだ。ああやっぱり。


「ね、無理しないでいいよ」
「……おいふぃいれすよ?」
「いやいや何キャラ……ねえほんと、ペッてして。ペッ」
「ん゙ん゙」


珍しく嫌々をする強情な電気くんに取り敢えずお茶を寄せる。ごくごく上下した喉仏。ぷはっと吐き出された二酸化炭素に苦笑する。


「ごめん。やっぱり不味かったよね」
「いやいやいやそういうんじゃなくて、こう……個性的な味に俺がついていけてねえだけって言うか」
「いいよいいよ。気持ちだけで十分嬉しいし」
「いやほんと!」
「ほんと?美味しい?」
「美味しい!」


綺麗なオウム返しに、思わずぷふって吹き出す。もう。電気くんってば。そんなに気を遣ってくれなくたって本当に大丈夫なのに、心の芯まで温かくて、やっぱりどこまでも優しい人。

たぶんこれが私相手じゃなかったら。きっと言葉を選ぶこともオブラートに包むこともなく、もっと直球だっただろう。嫌な気持ちにさせはしないけれど『待って驚きの不味さじゃね!?』なんて笑い話にしつつ、上手いこと食べない方向へ持っていくような気がする。そう考えると、なんて大事にされていることか。告白されて付き合って。そういえば頻繁に目が合うようになった頃から、ナンパ発言も全然聞かない。


まだ食べようとする電気くんからお皿を奪う。「せっかく作ってくれたし」とか「勿体ねえじゃん」とか物凄く渋られたけれど「お腹痛くなっちゃったら明日の演習ペア組めないでしょ」と鼻先をつんつんすれば、大人しく引き下がってくれた。「じゃあ次は一緒に作ろ!な!」って。「また食べたいし」って、朗らかに笑ってくれた。

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