真っ白なシーツと朝日と君と



夢を見ていた。何の夢だったか忘れてしまったけれど、たぶんどうでもいい夢だった。目玉焼きが美味しいとか、恐竜が空を飛んでるとか、大量の書類が終わらないとか。

そんなことより。


「……重いんだけど」
「……」
「ねえ、消太」
「……」
「ねえってば。ほら起きて、消太」
「……」
「もう……」


反応無し。随分と深く眠っているらしい。よっぽど疲れているのか何なのか。おかげで私をしっかり抱き込んでいる腕を退かすことも、抜け出すことも出来ない。


全く、いつの間に帰って来たのか。昨夜眠りにつく時は私一人だった。もちろん、ここのところ残業が続いていたし、また寝袋に収まっているんだろうって心配していただけに、嬉しさはある。消太の体温も匂いも好きだった。でもやっぱり、180越えの男に半分のしかかられているのは辛い。いくら細く見えても、さすがはヒーロー。ぽふぽふ叩いた背中だって、しっかり締まっていた。


今日が休みで良かったなあ。



「しょーおーたー」
「……」
「消太さあ、実は起きてて私の反応楽しんでない?」
「……」
「はあ……臓器全部左に寄ってってる気がする……」
「ふ、っ……くく」
「……やっぱり起きてんじゃん」
「悪い。どうするか気になってな」


寝起き特有の掠れた声に、どきり。
喉の奥で笑った消太は、緩慢な動作で隣へずれた。


「おはよう、なまえ」


腕がとかれ、頬を撫でていく指先。軽く寄せられた唇には、私から触れた。こうしてキスをするのも何週間振りか。眠そうだった三白眼が見開かれ、嬉しそうに細まる。愛しさのこもった眼差しが、愛おしいと思う。当たり前じゃない幸せが、当たり前に傍にあるっていうのはなんともくすぐったい。



「おはよ。仕事は終わったの?」
「ああ。なんとか年越しに間に合わせた」
「お疲れさま。ギリギリ三十一日だね」
「待たせて悪かったよ」
「いっぱい愛でてくれたら許す」
「具体的には?」
「んー……ぎゅーってして欲しい」
「そんなんでいいのか」
「消太だからね」


小さく笑った彼に「おいで」と、引き寄せられる。がっしりした胸板へ大人しく埋まれば、そのままぎゅーっと抱き締めてくれた。


肺いっぱいに広がる柔軟剤の匂い。普段より少しだけ高い体温と、ちょっとだけ早い心音。絡められた脚。私が擦り寄ると、微かに跳ねる背。

余裕そうに見えるけれど、あるいはそう見せているのかもしれないけれど、ほんのり緊張していることがなんとなく分かる。付き合いたての頃、女に慣れていないと言っていた。そのくせ、甘えたな私に合わせて存分に甘やかしてくれる優しさが、今年も来年も再来年もその先も、ずっと私を夢中にさせていくんだろう。

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