夢だけ見ていて



「合格だ。あくまで俺の主観だが、ほぼ確定と思っていい」


その言葉を私がどれほど心待ちにしていたか、皆は知らない。ヒーロー科への編入がたった今輪郭を整えた当人でさえ、きっと計り知れない。それくらい誰より願っていたし、望んでいたし、祈っていた。もちろん応援だってたくさんしてきた。一日でも早く叶うように。一緒のクラスで一緒の授業を受けて、一緒の夢を追えるように。

だからもう、嬉しくて嬉しくてたまらなかった。他に言葉なんて見つかりそうもないくらい、たまらなく嬉しかった。


「やったね……!!」
「っちょ、急に飛びつくなって。危ないだろ」
「聞いた!? ほぼ確定だって!」
「聞いたよ。聞いたから、ちょっと落ち着いて、」
「やっと人使とヒーロー目指せるね!」
「うん。それは俺も嬉しいんだけど……なまえ」


窘めるように名前を呼ばれて、初めて気付く。背中に突き刺さる数多の視線。目前にある彼の表情を表すなら、そう。『あーあ』って感じ。慌てて離れたところでもう遅いってことは、すぐに分かった。だって、これだけ躊躇いなくくっついて名前まで呼んでしまったのだ。

せっかく内緒にしてたのに、これじゃあまるで自分達は恋人ですって暴露しているようなもの。


「ご、ごめん……」
「あー……うん、良いよ。それだけ喜んでくれたってことだろ」
「申し訳ございません……」
「そんな畏まらなくても」


優しい人使は首裏を掻いて、もう一度「良いよ」と笑ってくれた。

おそるおそる振り返った先には、あんぐり口を開けている体操服姿のヒーロー科各位。いや、爆豪は相変わらず仏頂面だし、物間はニヤニヤしている。時が止まったように、すっかり固まってしまった空気を裂いたのは相澤先生の溜息。


「学業を疎かにするようなら即除籍にする」
「存じております……気をつけます……」


頭を垂れて、罪悪感と羞恥心を引っ込める。そのまま解散になったは良いけれど、待っていたのは案の定質問の嵐で。

ねえ待って人使、先に行かないで。ちょっと個性使って助けてよ。ねえってば。やっぱりちょっと怒ってるの? でもこれで、やっとこそこそせずに手も繋げるし、ぎゅーって出来るね。

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