惑う彗星
何を言っても、何を聞いても「大丈夫です」としか言わない生徒だった。
爆豪や轟と張り合えるだけの個性と、機転の利く賢い頭脳。その小さな背中について回るのは、大きすぎる羨望と期待。
仕方のないことなのかもしれない。恵まれた存在であり、彼女自身、とても素直で努力を怠らない。誰にも頼らず、甘えず。プロの俺から見ても、立派な根性だと思う。
「勉強は順調か?」
「大丈夫ですよ。先生が教えてくださるので」
「そうか」
「はい。いつも助かってます」
もちろん、平和の象徴と呼ばれたあの人がそうであるように、辛いときも苦しいときも、笑っていられるくらいでなければ、トップヒーローは務まらないのかもしれない。
ただ、ふとした瞬間に見せる疲れた表情に、胸を抉られる。
「あまり無理をするなよ」と声をかければ、笑った後に伏せられた目。長い睫毛が落とした影は、あまりに不似合いな薄い隈を色濃く浮き立たせた。
「……ちゃんと寝れてんのか」
「やだなあ。心配しないでください」
大丈夫じゃない顔で大丈夫だと笑うそれは、まるで自己暗示のようだ、と息をつく。
努力も忍耐も必要ではあるけれど、だからと言って、己を蔑ろにしていい理由にはならない。でもそれは、俺が教えるべきことではないように思う。誰かに気付かされるのではなく、自分で気付かなければいけないことだ。何かを失って初めて学ぶことがたくさんあるように、経験とは、きっと俺にとってもみょうじにとっても誰かにとっても、必要なこと。
「今日の先生は心配性ですね」
「……」
「先生?」
あまり、気の利いた言葉は知らない。話すことも選ぶことも、得意ではない。レールを敷いてやることも、そもそも好きではない。
ただ、学校という場所が、生徒達にとって、もう少し伸びやかに成長していける環境でありたかった。たとえば階段の踊り場のように、一度立ち止まって、自答出来る場所を作ってやりたかった。俺から見るみょうじには、それが必要だった。
返事のかわりに、小さな頭を撫でる。
いつも心配だよ。
お前のことは。
そんな言葉は、嚥下した。