原因:あなた
朝のランニングを終えて、シャワーでも浴びてきたのだろう。タオル片手に共用スペースへやってきた爆豪くんへ、トーストを齧りながら挨拶をして開口一番。「調子わりぃんか」と、体の不調を言い当てられた。
もうビックリして、咄嗟に頷けもしない。正についさっき、ベッドから起き上がった瞬間に感じたことそのまんま。といっても、なんとなくぼうっとするなあ、ちょっと寒いかなあってだけで、さして障りはない。この程度を察してくれるだなんて意外だ。
各々のんびり過ごしていた皆の「え、そうだったの!?」「気付かなくてごめん」なんて慌てた声をBGMに「実はそうみたいなんだよねー」って軽く笑えば、彼の眉間にシワが刻まれた。ずいっと端正な顔が寄ってきて、赤い瞳が目前で止まる。綺麗なルビーの中には、大きく目を見開いた私が一人。
ちょっと待って近い。これ何のご褒美。
「ば、爆豪く、」
「熱は」
「え、ちょ、ちょっとある……かな」
「喉は」
「ふ、ふつう……」
「寒気」
「少し……」
「たく、アホ」
溜息混じりにようやく離れた彼へ、うるさいくらいに高鳴った鼓動が落ち着いていく。
全く心臓に悪い。いくら付き合っているといえど、普段から甘い雰囲気なんてものは微塵も存在しない間柄である。せいぜい私から寄り添うくらいが良いところ。
「部屋戻んぞ」
「え?」
「えじゃねえ」
問答無用で、グイッと引き上げられた腕。急に腰が浮いてふらついたけれど、爆豪くんがしっかり支えてくれたおかげで倒れることはなかった。こういう一面はちゃんとヒーローっぽい。いや、そうじゃない。そんなことよりもっと気になるワードが、さっきから脳内をぐるぐる。
「とっととベッド入って寝ろカス」
「ごめん。えっと、爆豪くん?」
「あ"?」
「戻んぞってことは、その……部屋まで送ってってくれるってことだよね?」
「は? たりめえだろ。弱っとるザコ一人で歩かすか」
「……」
「しかも朝から消化にわりぃモン食いやがって……粥とうどん、どっちが良いか部屋着くまでに決めとけクソが」
「ちょ、待って、何の話?」
「昼飯以外に何があんだ。頭まで弱っとんか」
「、」
何もかも、全回路が機能停止。顔が熱くて体も熱い。あの爆豪くんが部屋まで送ってくれて、更にご飯まで作ってくれる気でいるだなんて一体誰が信じようか。ちょっと優しすぎないか。
「爆豪くん熱ある?」って聞いたら、心底意味が分からないといった表情で「ねえわ死ね」って言われた。
困った。なかなか頭が追い付かない。
そうして固まっている内にも、背中を支えてくれていた彼の手は、意図も容易く私の腰を抱いていく。恥ずかしい。ハッキリ言って嬉しいよりも恥ずかしい。
女性陣の『良かったねなまえちゃん……』なんて声が聞こえてきそうなあたたかい視線に背中を押され、なんとも居た堪れない気持ちでエレベーターに乗った。絶対熱上がってるよこれ。