ひとかたの煌めき



食堂で見かけた切島くんは、中学の頃よりもずっときらきらしていた。

といっても、話したことすら殆どない。たぶん切島くんは私のことなんて知らないだろう。彼がクラスメートに言っていた『ヒーローになりてえんだ』って言葉を勝手に聞いただけ。勝手にこっそり応援しているだけに過ぎない。


元々誰かをバックアップすることは好きだった。自分を変えよう、人の役に立とう。そう努力している人は、他の人よりきらきらしていて眩しい。だからこうして、経営科に入ったのだ。もっともっと、あわよくば私の手によって、存分に輝いてほしかった。



授業の一環。『プロデュース力を養う為にヒーロー科の演習を見学する』って誰かの案が採用された翌週。早速授業が組み込まれた。演習場に赴けば、A組もB組もきらきらしている人ばっかりで、気分が高揚としたのは言うまでもない。もちろん、視界の中心には切島くん。中学から一途に想い続けて来た人だ。目移りなんてしない。

先生からの紹介が終わり、各々事前に決めてあった班へお邪魔する。「よろしくお願いします」と頭を下げれば、目前の切島くんは大きな瞳を更に丸めた。その時はそれだけだった。でも、後になって隣へ寄ってきて「もしかして結田付中学出身じゃないっすか?」なんて小声で言うものだから、驚いた。


「そうだけど」
「やっぱり。何か見覚えあんなって思ったんだよなー」


きらきらした笑顔とは違って、ちょっと困ったような苦笑い。何でそんな顔をするんだろうって考えて、そう言えばって思い当たる。

そう言えば、彼がきらきらし始めたのは高校受験の少し手前から。それまでの彼は、彼にとって知られたくない自分なのかもしれない。それならそれで、全然あなたの存在なんて忘れてましたって感じにしておこう。私の前で輝いてくれないなんて、そんなのあんまりだ。


「三年の時、同じクラスだったよ」
「え、マジ? ごめん……俺名前とか覚えてなくて」
「ううん。私も、今ぼんやり思い出した」


笑ってみせれば、安心したように彼の表情もほぐれた。分かりやすい人。たぶん真っ直ぐで、嘘なんてつけないような男の子。そんな人柄が窺い知れて、ますます好きになる。

「みょうじなまえだよ。よろしくね」と手を差し出せば「切島鋭児郎だ。よろしくな」って握手してくれた。きらきらしている彼は、眩しかった。

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