融解する痛み
彼の暴言は、もはや癖のようなものだった。わかっている。誰に対してもそうであったし、私だからどう、ということもない。そんなものにいちいち動揺する必要はなく、軽く聞き流す方が自然だってことも、当然わかっている。
わかっているのに、表面的にしか流せない不器用な心が、今日も軋む。
どうしてこう、後ろ向きにしか考えられないのか。
モブ女から昇格したのはまだいい。名前だって、お茶子みたいに呼んでくれるようになった。爆豪に個々として認識されるのはとてもレアなことで、そこは素直に喜ばしい。弱くて女々しいタイプは嫌いだろうから、昔から男の子にまじって走り回っていたこの性格で良かったとも思う。
ただ、時折投げられるブスって言葉が、胸に刺さって抜け落ちない。まるで魚の小骨のように、チクチクと痛む。死ねとか殺すとか、そんな攻撃的な言葉よりも、よっぽど胸にくる。
だから、動画を見ながら密かにメイクを練習して、お茶子や響香に可愛いと言ってもらえた顔で登校したのに。ねえ、何で「似合わねえ」なんて顔を顰めるの。何で教室から連れ出したの。何で、私の精一杯の努力を、服の袖で拭おうとするの。
「……っ」
積もりに積もった感情が、小さく弾ける。
いくつも重なったそれは、私の涙腺をいとも容易く刺激した。
誰かの前で泣くなんて、幼稚園以来だろうか。戸惑ったように、ぴくりと震えた無骨な指を掴む。どうしようもなく惨めだった。好きな人に可愛いって思われたいだけの心が嗚咽をあげて泣いている。とめどなく溢れる涙が頬を濡らし、地面を色濃く染めては吸い込まれていく。
ただ泣き続ける私に驚いているのか、それとも呆れているのか。握ったままの体温は微動だにせず、いつものような威勢のいい声もない。それならもう、私の気持ちをぶつけたっていいんじゃないか。そう思っても、震える唇では言葉なんて紡げそうになかった。
どれくらい、そうしていただろう。
不意に、手のひらの中にある彼の指が動いた。するりとすり抜けていったそれは、てっきりどこかへ行くのだろうと悲しくなった私の目元を雑になぞって、少しさ迷ったのち「そんなに化粧してえんか」と、的はずれな声と共に、背中へ添えられる。首を横に振った瞬間、少々強引に引き寄せられて、肺いっぱいに広がる爆豪の香り。
「たく……変に色気付いてんじゃねぇわクソなまえ。そんままでいろやブス」
棘のある物言いとは裏腹に、ぎゅう、と強く抱き締められる。言葉の意味を考える前に、頭が真っ白になって。ねえ、どうしよう。
もしかしたら私、凄い勘違いをしているのかもしれない。