買いモン行くぞ、と連れ出された日曜日の午後。普通、彼女とショッピングともなれば『これとあれだったらどっちが似合う?』とか『この色どう?』とか『お揃いしようよ』とか甘やかなデート風景が浮かぶだろうけれど、残念ながら勝己に限ってそんなことはもちろんない。一緒に店を回りこそすれど、各々選んで各々決める。たまに私が選んでもらうくらい。

たぶん本当は、一人で必要な物だけサッと買って帰るタイプだと思う。それでも私を連れて来て荷物をまとめて持ってくれるのは、私が彼女だからか。そう考えると、なんだかくすぐったい。


スポーツ用品店を最後に、勝己の用事は終わったらしい。私も特にこれと言ってなく「他に行きてえとこは」と聞かれ、首を横に振った帰り際。新装開店のパンケーキ屋さんが目に留まった。

まあ究極お腹がすいているわけでもないし、今度梅雨ちゃんとでも食べに来よう。そう見て見ぬ振りをしたのだけれど、何だかんだ目敏い勝己の足は止まっていた。


「食いてえなら寄ってくか?」
「良いの? 甘いのしかないかもしれないけど」
「コーヒーか何かあんだろ」
「じゃあ、お願いします」


ん、って軽い返事。呆気にとられつつ、店員の後をついて進む平然とした背中を追う。通されたのは奥の二人席。勝己が手前のイスに腰を落ち着けたものだから、必然奥のソファへ座る。たぶん譲ってくれた。こういうところは、いつも遺憾なく才能マン具合を発揮してくれる。

「荷物こっち置くよ」

視線と共に寄越された紙袋を隣へ収め、勝己にも見えるようメニューを広げた。


リニューアルに合わせて品揃えも増えたのか。意外と総菜系もたくさんあって、結局勝己はマスタードとベーコンが乗ったスパイシーパンケーキ、私は焼き林檎のパンケーキを注文する。ブレンドコーヒーは食後のお楽しみ。待っている間にスマホをチェックしたけれど、通知は来ていなかった。

テーブルの端っこへ置いて「なあなまえ」って声に顔を上げる。頬杖をついている勝己の瞳は、穏やかに見えた。


「嬉しいか」
「……意図が良く掴めないんだけど」
「今嬉しいかって聞いとんだ」
「そりゃ嬉しいよ。好きな人とパンケーキ。あとお買い物」
「……、ならちったぁ笑えや」


思ってもみなかった言葉に瞠目する。バツが悪そうに寄った眉間のシワ。それでも視線が逸れることはなく「澄ました顔してんじゃねえ」と続けられた言葉は、まるで照れ隠しのように聞こえた。

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