涼し気な瞳、スっと通った鼻筋、きめ細やかなすべすべお肌に薄い唇。太陽が眩しいように、冬が寒いように、今日も赤葦くんは見目麗しい。小さな口を開いて、結構豪快におにぎりへかぶりつくギャップがまたたまらない。「美味しい?」って聞いたら、もごもごしながら「美味しいです」って頷いてくれた。

海苔がパリパリ咀嚼され、男の子らしい喉仏が上下する。かちりと合わさった視線は数秒そのまま。お茶を飲む為に一瞬逸れて、再び戻ってくる。おにぎりと一緒に。


「……食べます?」
「ううん。お腹いっぱい」


物欲し気にでも見えたのだろうか。あいにくお腹がすいているわけじゃない。ただ赤葦くんを眺めていたいだけ。せっかく忙しい彼が週に一度、私のために使ってくれている貴重な時間だ。一分一秒、無駄になんてしない。

抱えた膝に頬を預けながらくすくす笑えば、手を引っ込めた彼は「そんなに見られると食べ辛いです」と苦笑した。


「ごめんね。慣れて」
「無茶言いますね」
「もうちょっと離れた方がいい?」
「そのままで良いですよ。距離の問題じゃないので」
「そっか。良かった」
「みょうじさんは、俺の顔が好きなんでしたっけ」
「うん」
「見ていて楽しいですか?」
「楽しくなさそうに見える?」
「いえ、全然」
「でしょ。おかげさまで至福のひと時を過ごせておりますよ」
「それは……お粗末様です?」
「はい、ご馳走様です」


最早お馴染みの緩いやり取りに、どちらからともなくこぼれた笑み。もちろん少しでも嫌がる素振りを見せるようなら、ちゃんと自重するつもりでいる。無理強いは良くない。けれど赤葦くんは、まるで私の想いを受け入れるように、ただただ頬を綻ばせるだけ。

そんな、ちょっと魅惑的なところも良いなあって思う。好きだなあって、心がふわふわ。


「嬉しそうですね」
「嬉しいからね」
「安上がりすぎません?」
「そう? 贅沢じゃない?」
「え、どの辺がですか?」
「だって赤葦くんだよ。超高級」
「俺高級なんですか」


再度可笑しそうに口元を緩めた彼は、残りのおにぎりを平らげた。ゴミを袋に纏め、口を結ぶ。ほら、こういうとこも好き。赤葦くんとご飯を食べる度、赤葦くんを知る度、いろんな一面が次から次へと浮き彫りになって、どんどん深みへハマっていく。

本当奇跡みたいなこの時間が互いにとっての当たり前になるのは、もう少し先の話。

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