個性の影響か、夜中にお腹がすくことはさほど珍しくない。もそもそベッドから這い出し、共用スペースにあるキッチンの照明をつける。小腹が満たせれば何でもいいのだけれど、今はちょっとサラダが食べたい。
冷蔵庫から人参とレタスと大根を出し、なんだか味気ないのでついでにお豆腐も取る。冷凍していた私用のご飯を電子レンジにかけてから、包丁を洗った。野菜の皮をむいて、まな板に寝かせてトントントン。
「ッ……」
鋭い痛みが走ったのは、人参を切っている時。そう言えば切島が研いでくれてたなあなんて思い出しつつ、滲み出る赤色を水道水で洗い流す。パチって音に振り向けば、明るくなった室内に勝己が立っていた。
「ビックリさせないでよ」
「てめえが勝手にビビったんだろが」
「目ぇ覚めたの?」
「ん」
欠伸をする彼からシンクへと向き直って水を止める。近付いてきた足音はすぐ後ろで止まり、ついで右肩に乗っかった重み。視界の端にはクリーム色がチラついて。
「ドジ」
真横で響いた随分と近い低音は、私の肌を粟立たせた。
相変わらず、この近過ぎる距離にも寝起きのざらついた声にも慣れない。高鳴る鼓動に素知らぬフリをしながら「人の肩に顎を乗せない」って注意すれば、からかうような吐息が鼓膜を襲った。思わず片足を引いて耳を覆う。口端をつり上げた得意気な笑みが、なんともかっこよくて憎らしい。
「勝己」
「おら、手ぇ出せなまえ」
「……」
私の睨みなんて何のその。総無視で差し出された手のひらへおずおず手を乗せれば、そのまま救急箱まで連行された。ティッシュを当てながら消毒し、綺麗に拭き取ってから絆創膏を貼ってくれる手際の良さったらない。いつもいろいろ雑なわりにこういう時はしっかり優しくて、指が曲げやすいよう調節までしてくれた。
皮膚に残る温度は、少し高い。
何とも表しがたい妙な気恥しさを振り切ってお礼を言えば、救急箱を定位置へ戻したその手で「気ぃ付けろや」と、くしゃくしゃ頭を撫でられた。