青葉城西は、何も男バレだけが強いわけではない。女バレもちゃんと大会で名を挙げていて、練習メニューも結構きつい。男バレ部員とお近づきになりたくて入部すると、早々に痛い目を見る。実際、及川徹に夢を見て入ってきた今年の一年生は全員辞めた。

で、そんな花より団子な逞しい女バレの面々を支えるのが私の役目。な筈なんだけれど、悲しいかな。視界の中で汗を流しているのはデカくてゴツい男ばかり。ファンならいざ知らず、残念ながら私は黄色い声をあげてはしゃげる人種ではない。


「何でこんなむさ苦しいところに駆り出されてるんだろ……」
「そりゃアレだろ。働きモンだし」
「死ぬほど嬉しくない」


休憩に入るのか。ボトル片手に寄ってきた貴大は、けらけら笑いながら隣に座った。よっこいしょ、とか。スポーツマンの名が泣いてしまうからやめて欲しい。

「なあ俺のタオル取って」と肘で小突かれ「どこよ?」って顔を向ける。「そこにかかってる白いやつ」なんてアバウトな説明と共に顎で示された反対側斜め上方向の窓を見遣れば、格子に引っかけられているタオルがあった。仕方なく腰を上げ、抜き取った白いふわふわを顔面に押し当ててやる。くぐもった声は、少しの驚きを孕んでいた。


「痛いんデスケド」
「ごめん。なんか腹立った」
「酷ぇわー」
「そもそも貴大が取ってから座れば良かったくない?」
「あーそれはほら、早くお前と喋りたかったから」
「喋りながらでもタオル取れたよね?」
「ぐ……」
「はい、リピートアフタミー”すみませんでした有難うございます”」
「スミマセンデシタアリガトウゴザイマス」
「二点」
「もう一声」


期待を裏切らない緩い返しについ吹き出すと、彼もつられて白い歯を覗かせた。コート上で見せる真剣な表情とは打って変わって、随分リラックスしているように見えるのは、きっと気のせいじゃない。

『俺ら結構相性良いと思うんだよネ』

二週間前に受けた告白に付随していた言葉通り、貴大とは感覚的な面でぴったり一致することが多い。あれ可愛いこれカッコイイそれ美味しい今甘えたいエトセトラ。だからこそ気兼ねなく傍に居られる。距離感だって、そもそもが友達以上だったからか。恋人になった今も大した変化や意識はなく、それがまた楽で良かった。どちらかと言えば、家族に近い感覚かもしれない。


「ま、そんだけ信頼されてるってことだろ。マネージャーとして」


こくん。こくん。ドリンクを飲む度上下する男らしい喉仏をぼんやり見つつ「そうかなー……」って、立てた膝に頬杖をつく。女バレが休みの時だけでいいから手伝ってくれなんて、私からしたら、じゃあ私のお休みはゼロでいいってことですか?はあ?って感じだけれど、そう言われると悪い気はしない。根っからの性分も手伝って、頼りにされるのは素直に嬉しかった。男バレの事情は主に貴大からよく聞いているし、新しく募集したマネージャー候補を篩にかける手間の惜しさも、一から育てる時間が勿体ないことも、男子部員が面倒を見たがらないってことも知っている。考えれば考えるほど、私ほど最適な人間はいない。


「なまえなら要領分かってるし、俺のだから手ぇ出すことも出されることもねーだろうし」


それに。


「いつも頑張ってんじゃん」


人懐っこい笑みに、全思考が呑まれる。いつもふざけ合ってばかりいるせいか、面と向かって褒められるのはなんだか慣れない。胸の内側がむずむずするにつれ、びっくりしたあまり下がった口角がみるみる内に緩んでいく。ああいけない。部活中に私情はいただけない。

せめて平常心を保とうと貴大の頬を摘んでみょんみょん伸ばせば「やめれ」って嫌がられた。ついでにじゃれるなら他所でやれと溝口くんに怒られた。すみません気を付けます。

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