九割九分ダメだと思っていた。だから色気もへったくれもない、暖簾が空間を隔てているだけの屋台でお酒の力を借りた。ありきたりなシチュエーションだった。「そういうなまえさんは、好きな人いるんです?」って社交辞令に目も合わせず、酎ハイのジョッキ片手に玉砕を想像しながら「いるよ。今隣に」って。

キョトンとしたあの顔、ひよこみたいで可愛かったなあ。


自然と落ちた視界の中、大して柔らかくもないだろう私の膝で規則的な呼吸を繰り返す彼の黄金色を掬う。脱色しているのか、天然なのか。どちらにせよ、昼夜問わず上空を飛び回っているからだろう。指の表面を滑り落ちていくその髪は、少々軋んでいた。職業柄、自然とそんなところが目につく。それでも大層立派に輝いて映る啓悟を捉える度、自分に、これといった取柄がないことを思い知る。引け目を感じる。

別に悲しくはない。虚しくもない。こんな私でも、好きな人が好きだと言ってくれる自分は嫌いじゃない。あの時、軽やかに笑ってくれたのだ。電柱にとまっているだけで女の子達からハートが飛んでくるような男が『俺もね、いるんですよ。今目の前に』って、ちっともアルコールを窺わせない彩色を灯したその煌びやかな瞳を細めて、好きだと笑ってくれたのだ。

だから、卑屈になることは全然ない。恋人って関係性を築いてまだ日は浅いけれど、日々の態度やちょっとした言葉尻から感じられる。冗談じゃないってことくらい、しっかり分かる。ただ、あんまり自信が湧かないだけ。


「何考えてるんですか?」
「……啓悟のこと」
「ははっ、やめてくださいよ。照れるじゃないですか」


軽やかに茶化した彼は、全然照れているようには見えない口角を緩めた。私の膝上で私を見上げたまま、本当に眠っていたのかそうでないのか判らない温度で頬を撫で、私を幸福へと誘う。啓悟の掌は、いつも優しい。


「俺だけを見て」


煌々と輝く月のような黄金色が、到底綺麗とは言えないこの心の内をどこまでも透明に透かしていく。


「あなたのことは俺が見るんで、もう大丈夫ですよ」

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