ショッピングモールは宝の山だと常々思う。新作のコスメが出ていたり、可愛い食器が並んでいたり、季節を先取りしたお洒落な服が好みだったり、アロマ加湿器のいい香りに癒されたり、私の部屋にある物よりきっと優秀だろうウォーターサーバーの宣伝が魅力的だったり。ついつい目移りしては足が止まってしまう。気付いたら連れがいないなんてことは幼い頃からままある。だから割と気を付けているつもりだったんだけど、とうとうやってしまった。A組の皆がいない。せっかくの休みだし皆で出掛けようぜってぞろぞろ来たのに、気付いたら知っている顔が一人もいなかった。

いや、可愛かったんです。猫さん柄のスマホケースがね。凄く凄く可愛かったんです。私のケースもうバッキバキなんですよ。良く落とすもんでね。


「連絡するか……」


梅雨ちゃんなら気付いてくれるかな。ああ、ちょっと情けない。トイレ行ってたことにしよう。

溜息を吐きつつポケットに手を入れたその時、左肩がグッと下がった。


「びっ……くりしたあ……」
「はっ、こんぐれえでビビってんなや」


左側斜め上方向。現在進行形で私の肩を肘置きにしているかっちゃんは、片口を吊り上げて笑った。そんな嫌味な顔さえ様になるのだから、イケメンとは末恐ろしい。って言うか重い。重いよかっちゃん。いくらヒーロー志望とは言え、成長期真っ只中のメンズを左肩だけで支えるなんて無理があるよ。

骨が悲鳴を上げてしまう前にと片足の力を抜き、肩を落とすことで負荷を逃がす。予想だにしていなかったのか、かくんと傾いたかっちゃんの額に青筋がぴきり。さすがに場所が場所だから爆破されはしなかったけれど「っにしてくれとんだクソなまえ…!」ってしっかり頭を叩かれた。痛てて。


「皆と一緒じゃないの?」
「あいつらと回っとったら日ぃ暮れんだろが」


心底気怠げに尖った唇。「オラ行くぞ」と強引に腕を掴まれ、仕方なく猫さん柄にバイバイする。

あーあ。このまま幼稚園児みたいに連行されるんだろうなあ。ショッピングモールで恥ずかしい。でも私が悪いんだから仕方ない。って思っていたら、さも当然のように滑りおりてきた無骨な指が絡められてビックリ。私より一回りも二回りも大きな手が温かい。

待って。え。かっちゃんこんなナチュラルソフトに女の子と手なんて繋げるの?意外。


「か、かっちゃん?」
「あ?」
「良いの?手……」
「別に。これなら、はぐれねぇだろ」
「……うん」


何だ。はぐれたこと、気付いてたのか。てっきりかっちゃんは皆と別行動で、たまたま私と同じタイミングで気ままにスマホケースを見ていたものだとばかり思っていたけれど、どうやら違うらしい。握った手がちょっと汗ばんでいるのは、もしかして。


「かっちゃん」
「んだよ。まだ何かあんのか」


もう。素直じゃないんだから。

嬉しさのままに「有難う」って笑いかける。少し遅れて舌打ちをしたかっちゃんは「スマホのやつ、あっちの店のがいっぱいあんぞ」と、ぶっきらぼうにオススメ店へ連れて行ってくれた。

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