しじまを喰らう鱗の色



放課後『そうだ、京都に行こう』みたいなノリで、USJを借し切った隠れんぼ大会が開催された。隠密または探索強化練習のため、で即日許可がおりたあたり、たぶん相澤先生はお疲れだ。ちなみに「くだらねえ」と一蹴した勝己は、梅雨ちゃんの「すぐ見付かりそ」って一声で参加に転じた。とってもちょろくて微笑ましい。

水の中や火災ゾーン等の危険箇所、個性の使い方ではなく本来の性質によって優劣が出てしまうような場所は禁止ってルールのもと、鬼は必然葉隠ちゃんに決定した。とはいえ見付かった子も鬼になるゾンビ方式。一人で全員を探すわけじゃないから孤独感は薄いはず。


「いーち、にーい、―――……」


まるで蜘蛛の子を散らすよう。各々思い思いのスポットへ駆け出す中、踵を返した勝己の後ろ姿を追う。お口の育ちは良くないけれど、なんだかんだ賢い彼のこと。どこへ隠れるのか気になった。あとはまあ、下心が大さじ三杯ってところかな。

“昔馴染み”って関係性ではあるものの、私は、出久みたいにぶつかり合いながら切磋琢磨出来るような位置にいない。噛み付くことがないからか、噛み付かれることも滅多となく。たぶん男女の差が大きい。たまに部屋を訪ねてきても、私のベッドで寛ぐだけ。目も合わないし喋らないから、何を考えているのか分からない。だからこそ、繋ぎ止めておきたかった。自分の感覚を。“勝己”が分からなくなる、その前に。たぶん、隠れている間くらいなら付き合ってくれるだろう。



広い背中はエントランスへ一直線。どうやら隠れやすい倒壊ゾーンではなく、出入り口手前の待機室がお目当てらしい。なるほど。確かに盲点。こんな部屋があるってことを知っている生徒も少ない筈だ。

爆発音で辿られることを懸念してか、途中から普通に走り始めた勝己と一緒に、お邪魔します。彼は電気をつけるなり、長イスの真ん中へドサッと座った。


「ンでついて来とんだ」
「どこ隠れるのか気になって」
「チッ。……座れや」


まさかのお許しを頂いて、いそいそ隣へ腰掛ける。コンクリートに遮断された室内は、ひどく静かで呼吸音さえ伝わりそう。無言なのに気まずくないのは、もう慣れっこだからか。

少しして「で? そんだけじゃねえだろ」と、私を見透かす勝己の瞳が久しぶりにこちらを向いて、すぐ逸らされた。その意味すらも、今は全然分からない。昔はもっと、手に取るようだったのに。


「上手く、言えないんだけど」
「おう」
「だんだん、知らない勝己になってく気がして……ちょっと、なんか……」


不安? ううん。悲しい? 違う。寂しい? うーん。いくつか自問してみたけれど、あいにく答えは出そうもない。なんとなくどれもしっくりこないまま、言葉に詰まって落下する。

勝己は鼻で笑うなり「なまえ」と呼んだ。「手ぇどけろ」と、いつの間にか膝上で握っていた私の拳を小さく顎でしゃくって示す。両手を脇へずらせば―――ぽすん。クリーム色のツンツン頭が着地した。


「か、かつき?」
「ンだよ」
「や、それこっちのセリフ……」
「昔は良くやっとっただろ」
「そ、だけど」


平然とした声色相応の横顔に戸惑う内、息を吐いた薄い瞼が閉じられる。ほんの少し増した重みと上がった温度が、スカート越しに肌へと馴染む。


「別になんも変わってねーわ」


あ、これ見付かった時恥ずかしいなとか、たぶん誤解されちゃうけどいいのかなとか、そんなの全部どうでもいい。全部どうでも良くなるくらい、たった一言を裏付けるため、私のために動いてくれた勝己がただただ愛しくて―――。



title Garnet
21.08.18

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