ラブレターを読み間違えないで



最悪だ。なにが最悪って、あの温和な焦凍に顰めっ面をさせてしまっている現状と、その要因である私。

畳の上に正座して、情けなさと申し訳なさに縮こまる。そんなに怒らなくてもいいじゃんか、って若さゆえにどうしても思ってしまうのだけど、私が悪いと分かっているから口にはしない。焦凍のお父さんにお呼ばれされたインターンでのパトロール中、いくら敵捕獲のためとはいえ、まだ仮免の分際で単独行動をとってしまった。もちろん自覚はあるし反省してる。だから今、焦凍からの淡々としたお説教を受けている。脳内が“ごめんなさい”で埋まってく。


「報連相はヒーローの基本だろ」
「仰る通りです……」
「連絡くらい出来たんじゃねえのか」
「はい……」
「何かあってからだと遅ぇ」
「すみません……」


はあ、最悪だ。焦凍めちゃくちゃ怒ってる。怒ってる? って聞いたら、怒ってねえって言われたけれど、これは絶対怒ってる。いつも『気をつけろよ』くらいで終わるところ、既に足が痺れをこえて最早感覚なんて微塵もない。私もあぐらをかけば良かった。かいていられる状況だったら、すごく良かった。


「し、しょーと」
「ん?」
「あの、……ごめんなさい」


ぺしょり。ひれ伏すどころか畳と一体化する心積りで土下座する。残念ながら、彼の怒りを鎮められるような言葉は浮かばずじまい。焦凍も報連相出来てないことあるよね? 後先考えないで突っ走ることもあったよね? そう言いたいけど言ったら言ったで火に油。だって今は私が悪い。だんだん大人になってきている焦凍にかなうわけはない。

畳についた手へ額を押し付ける。これが猫ちゃんだったなら、さぞかし完璧なごめん寝だったことだろう。思わず写真を撮りたくなって、お説教から撮影会へ移行していたかもしれない。なんて逃避は、焦凍の小さな溜息によって掻き消えた。あたたかな温もりが、頭の上にそっと乗る。


「顔あげてくれ、なまえ」


染み渡るのは確かな安堵。おそるおそる見上げれば乾いた指に目尻をすり、となぞられた。大丈夫。泣いてないよ。叱られて泣くほど幼くない。まだ大人じゃないし焦凍を怒らせてしまうような子どもだけれど、それでも立派に有精卵、やってるよ。

上体を起こしおずおず向き合う。焦凍の瞳は落ち着いていて、眉尻は少し下がっていた。


「怒ってる?」
「怒ってねえ、けど」
「けど?」
「……心配した」


肩裏へ、回った腕に抱き寄せられる。足の感覚がないものだから、腰が浮いては自然バランスが保てなくって寄りかかる。鼻腔を包む、焦凍の香り。


「次から気をつけてくれりゃいい」


耳元で揺れた声は真っ直ぐ低く。なまえに何かあったらって気が気じゃねえ、と、縋るような思いやりでいっぱいだった。



title パニエ
21.09.08

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